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燃え殻さんのデビュー作がベストセラーになるまで

「小説ってなに?」からはじめたのに…

ウェブ連載時から多くの反響を巻き起こした、燃え殻氏の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、新潮社から単行本として刊行された。

テレビの美術制作の職にある燃え殻氏が体験した、ほろ苦い恋愛経験と、1990年代後半から現在に至るまでの時代の“匂い”が描き込まれた、甘酸っぱく切ない「大人の青春小説」。発売されるや即重版がかかるなど、新人作家としては異例の売れ行きを示している。

小説執筆に至る経緯を聞いた前編では、燃え殻氏の半生を振り返りながら、フォロワー9万人を超える「Twitter有名人」となるまで、そして、初めての執筆であるにもかかわらず、氏の作品がなぜここまで多くの人の心を掴むのか、その秘密を探った。

後編では、『ボクたち』の作品世界に切り込み、普段見逃しがちな些細な日常の機微と豊かさ、そうした生を描くことの意味に迫る。燃え殻氏の言葉に触れ、こう確信するはずだ。ボクたちはやっぱり、みんな大人になれていないらしい。そして、それでいいのだ、と――。(前編はこちらから

40超えて、いきなり長いものを書く

――前回は、テレビの美術制作の仕事をしながら業界の裏と表を見つめ、そのうちにTwitter界の人気者になった燃え殻さんが、小説を書くことになるまでを伺いました。140字の100倍、1万4000字インタビューの後半は、『ボクたちはみんな大人になれなかった』の作品世界に迫りたいと思います。

ここで聞き手を現代ビジネスの阪上から、フリー編集・ライターの宮田さんにバトンタッチします。新潮社の担当編集である宮川さんにも入っていただき、燃え殻さんに対して1対3のハンディキャップマッチを挑みたいと思います。はぐれ国際軍団とアントニオ猪木の、アレです。

燃え殻 そんなインタビュー、見たことないですよ…(笑)。わかりました、よろしくお願いします。

――よろしくお願いします、宮田です。cakesの編集さんとやりとりした、燃え殻さんの人生や恋愛体験を振り返るメールが、ある種ツイログのような形でテキストとしてまとめて送られてきて、それが小説になった、ということでしたね。

私事ですが、自分も小説の編集をやっている者です。初めて小説を書く方の文章というのは、普通、読んでいると「かなり赤入れ(書き足しや修正、書き直し)が必要だなあ…」という気持ちになるものですが、今回の新刊は、ピクリともそういう感情が起きませんでした。

燃え殻 そうなんですか、ありがとうございます。それはもうcakesの中島さんと新潮社の担当の宮川さんに感謝ですね。宮川さんには、いっぱい叱ってもらいました。もう、お母さんのような人ですよ(笑)。

――cakes連載から単行本化まで、自分の体験を小説という形にまとめるというのは、相当ハードルが高かったと思うんですけれども。

燃え殻 いやもう、40歳を超えていきなり長いものを書くって、基本的にはサムいことじゃないですか(苦笑)。だからこれは、自分でテンションを上げて、夜中に書くか、起き抜けに書くかしかないな、と。

ウェブ連載時は毎週火曜が掲載日だったんで、月曜の夜中の3時とか、あるいは火曜の朝に起きてとか、バーッと書くんです。恥ずかしいという気持ちに追いつかれないように書く。それを「中島さん、ごめんなさい!」と思いながらパッと送っちゃう。送っちゃったから、もう俺は知らない、と(笑)。

恥ずかしいという気持ちはありましたが、みっともないと思ってもしょうがないじゃん、なんて一人で考えながら、なんとか書き続けましたね。ウェブ連載では小説というよりも“叫び”をそのまま書く、みたいな感じでしたので、単行本化にあたって、そこをどう直せばいいのか、宮川さんに改めてご相談させていただいて。僕は読書家でも何でもないので、「小説って何ですか?」ということも含め、一から聞きまくりました。

 

――ご謙遜だとは思うんですが、以前に、家に本が10冊もないといったお話をされていましたよね。

燃え殻 実は、全然「ご謙遜」じゃないんです。本当にそれぐらいしかない。

――そんな燃え殻さんに対して、宮川さんはどうアプローチしていったんでしょうか。

新潮社・宮川 実は私、cakesで連載が始まる前に燃え殻さんに一回お会いしたことがあったんです。燃え殻さんのTwitterアカウントをフォローしていまして、そのつぶやきを読みながら、「この方は小説を書く人なんじゃないかな」と感じたんですよね。

燃え殻 そうなんです、ある日突然呼ばれまして。赤坂サカスでしたっけ。

宮川 六本木ヒルズ近くの喫茶店だと思います。

燃え殻 そうか、いずれにせよ、いきなり呼ばれて。これはもう、絶対にエロいことが起きるんじゃないかと思って(笑)。

宮川 何言ってるんですか、お会いしたのは真っ昼間ですよ!(笑)…とにかく、燃え殻さんは小説のように長い文章を何か書きたいんじゃないかな、と思っていたんですよ。Twitterでも印象的な“シーン”が書ける方だと思っていたので、これは絶対に小説も書けるだろうと思っていました。

そう伝えても、燃え殻さんは「小説とか考えたこともないし、書いたこともないです」とおっしゃって…。とりあえずその場では「でも書いた方がいいし、書けると思いますよ」とだけお伝えしました。

それからしばらく経って、私が文芸の部署から異動した後に、燃え殻さんから「樋口さん(注:燃え殻氏に小説執筆を勧めた作家・樋口毅宏氏、インタビュー前編参照)に会います」とメールが届いたんです。

燃え殻 ですから、本当の最初、小説の影の形もない、cakesの連載もない段階で声をかけてくれたのは宮川さんだったんです。だから、本のように何かの形になるとしたら、宮川さんに頼みたいなと僕は思っていました。それで「こういう小説になりそうなんですけど……」とご連絡したら、興味を持っていただけて、今に至るというわけです。