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「燃え殻さん」って何者だ…?デビュー作が品切れ続々で話題

~フォロワー9万人から小説の世界へ
宮田 文久 プロフィール

糸井重里さんとのネット的出会い

燃え殻 そう。そこから、主に恋愛の話になりました。「そのブサイクな人とどうやって出会ったんですか」「なんでブサイクなのに付き合ったんですか」「どういうことをしたんですか」と聞かれて。ブサイクにやたらと反応するんです(苦笑)。この彼女というのが、小説でも中心となる女性なんですが、「でも、俺はその人のこと、今でも好きかもしれないんですね」と返しました。

中島さんとそういうやり取りをするのは楽しかったんですが、すぐに「これで一冊書けますね」という話にはならない。実際に僕と彼女がしていたことを思い返しても、渋谷・円山町の奥、神泉のあたりのラブホテルに引きこもってばかりいましたから。

もうちょっと華のあるエピソードや紆余曲折はないのか、ラブホテルばかり行かれても困る、ということを聞かれるようになりました。まあ、編集の方の感性として当然ですよね。

――作品に動きがないと、困りますよね…。

燃え殻 そんなラブホテルだけの密室劇ってあるかよ、とは思いますよね。「もっとちょっと、何かこう、ないですか、木製のメリーゴーランドに乗ったみたいな素敵な思い出とか」「ないですねえ」といったやりとりが続いて……(笑)。

そんなことを続けていたある日、突然、中島さんがそれまでのメールをすべてコピペして、ドーンと送ってきてくれたんです。「これ、何かになる可能性がありますね」と。

――!!それで、ようやく小説への第一歩が踏み出されたわけですね。

燃え殻 それを読み返しても、ほとんどが日常の愚痴だったり、「今週は死にたい」みたいなネガティブな文章だったり……「本当に何かになるのかな?」と自分は思いましたが、「じゃあ、連載しましょう」と話が進んじゃったんですね。メールのやり取りを続けるうちに、中島さんが、随分とその「彼女」に共感してくれたようなんです。

僕が付き合ったその女の子というのは、すごく綺麗で誰もが羨むような人ではないんですが、1人でルノアールで珈琲を飲んでいるときとか、昼飯でパスタを黙々と食っているときにふと「あの子、何やってるかな……」と思い出してしまうような女性なんです。人に言うほどでもないんだけど、自分にとって大事な人っているよね、という話を中島さんとしたのを覚えています。そうした、“決定的”ではないことで日常や人生ってまわっているよね、と。

 

――人生は何でもない瞬間の積み重ねだと。

燃え殻 「ここが人生の分岐点でした」、「ここが俺の人生の華で、スポットライトが当たった時期でした」みたいなことも、もちろんあるわけですが、そうではない時期だって、別に死んでいたわけじゃない。むしろ、そのスポットライトの位置まで自分を導いてくれた人というのがいるわけです。

点ではなく線でいろいろと、ああだこうだと会話しながら一緒にいた、そんな人のほうが恩人だよね、と。そして『ボクたち』のヒロインでもあるその女の子が、僕にとっては、まさに「その人」だったんです。

それこそ、その子がいたからこそ小沢さんがクレープ屋の前で待っていてくれたわけですし、元ハガキ職人の方のTwitterが改めて面白いな、と気づける感性が僕のなかで育ったわけですから。彼女がここに連れて来てくれた、という感覚はすごく強いです。

自分という存在のなかで、自分以外の人で多くのパーセンテージを占めるのは、すごく有名な人であるとか、戦国武将のような人ではなくて、普通に道ですれ違ったら誰も振り返らないような人だろう、と。これ面白いよねと話したり、悲しいことを共有したり、そうした日常において僕の中に世界を見る“物差し”をつくってくれた、1人の女の子のことを書きたいなと思ったんですね。

――それでウェブ連載を始めたら、糸井重里さんを始め、名だたる方々が「これは面白い」「グッとくるものがある」と言って、大評判になっていくわけですが。

燃え殻 おかげさまで……ほんとに、ねえ(笑)。でもインターネットってそこがすごく面白いなと思って。本来踏むべきステップを踏んでいないというか、なんでしょう、“端折って”ますよね。

――人気になって、単行本を出せるところまでたどり着くのに、普通はどれだけの梯子を上らないといけないのか、ということですよね。

燃え殻 良いことも悪いこともすぐに“端折って”伝わるメディアでもありますけど、それこそ糸井さんも“端折り”たいんだろうなあ、と感じることがあります。それってすごくインターネット的ですよね。実際に連載している途中、第1章の最終回の時に、糸井さんから始めて「面白いね」と感想のメールをいただいたんです。

美術家の会田誠さんも小説へのコメントをくれたりとか、「ああ、こういう方たちも読んでくれているんだ」と思いました。ここでも、インターネットの“段差”の無さをすごく実感したんです。

(構成/文 フリーライター・宮田文久、撮影/村上庄吾 インタビュー後半は、『ボクたちはみんな大人になれなかった』の世界に迫ります→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52271

糸井重里さんら著名人が絶賛するのはなぜか。読めばわかるはず(amazonはこちらから)