日銀の原田泰政策委員会審議委員(Photo by gettyimages)
政治政策 経済・財政 週刊現代

「日銀がヒトラー称賛!」と騒いだマスコミの思考停止

条件反射も甚だしい…

「文豪」の異名を持つ超エリート

日銀きってのリフレ派として知られる原田泰政策委員会審議委員の発言が、いまメディアで取り沙汰されている。

原田氏が講演で、ナチス・ドイツの指導者ヒトラーの政策について「正しい財政政策をした」と肯定的な発言をしたとして、一部から批判を浴びたのだ。同氏の考え、そしてこの発言の真意にはなにがあるのか。

原田氏は、現内閣府の経済企画庁出身の元役人である。

経企庁は、「官庁エコノミスト」を志す人間にとっては憧れの官庁だった。官庁エコノミストは「経済白書」を執筆するなど、一般的な役人と違って実名で書物を執筆することがあり、「経済白書の執筆が最高の栄誉」と考える人もいる。原田氏も役人時代から多作で、単著だけで30冊以上の本を書いていることから「経企庁の文豪」というニックネームまで得ていたほどだ。

 

並の学者よりも多作な原田氏だが、著作でカバーする分野も年金制度から少子化と人口減少、国際競争力、教育問題までと幅広い。そして、それぞれの分野での通説や思い込みを、統計データと経済学的思考で覆す、というのが彼の論法である。

実は原田氏の著作では、ヒトラーに言及しているものも少なくない。通説では、戦前ドイツで起こったハイパーインフレで社会が崩壊して、ナチスの台頭を招いたといわれている。だが原田氏はこれが誤解であると指摘している。

そもそもドイツでハイパーインフレが起きたのは1910年代末で、それよりも1930年代の大恐慌によるデフレと失業が響いたことがナチスの政権奪取につながったとしている。

ちなみにナチスの経済政策はリフレ派の考えと近いところがある。金融緩和政策でデフレから脱却を図り、財政出動でアウトバーンという高速道路を建設し、国民車としてフォルクスワーゲンを造った。これは現代でいうならば、リーマンショック以降に世界各国で行われた金融政策と財政政策の「同時出動」と同じである。

原田氏の著書『反資本主義の亡霊』では、このことを皮肉っぽく語っている。

「そもそも、ヒトラーの前の政権が、金融を緩和し、デフレから脱却すればよかっただけの話である。そうすれば、失業率は低下し、人々は理性を取り戻し、人種差別や世界征服を呼号するナチスに投票などしなかっただろう。ヒトラーは政権に就くことができず、第二次世界大戦は起こらなかった」といった具合である。

原田氏の一連の著作を読めば、同氏の発言がヒトラーの悪行を痛烈に批判し、ヒトラー政権のような存在が二度とこの世に現れないようにするにはどうすべきかを考えた上でのものだということがわかるだろう。

反資本主義の亡霊

しかし、残念ながらこのような真意が汲まれないまま報道が独り歩きしてしまった。

ロイター通信海外版は、ヒトラーと聞いただけで条件反射し「原田泰日銀政策委員がヒトラーの経済政策を賞賛した」(Bank of Japan policymaker Yutaka Harada praises Hitler's economic policies)という見出しを立てたのだ。

原田氏の講演での言い回しはセンセーショナルだったかもしれないが、メディアはそれで早合点せずに「文豪」の著作にあたるべきだった。

週刊現代』2017年7月22・29日号より

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