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「定年後無職」急増で、この国の消費は驚くほど停滞する

なんと現状でも4割が「無職世帯」
熊野 英生 プロフィール

資産より不安の方が大きい

こう言うと、シニアは多額の金融資産を持っていて、実はリッチなのではないかという反論も出るだろう。消費が歳をとって減るのは加齢によって小じんまりと生活するからで、そのこと自体を問題視する必要はない、と言う理屈だ。

しかし、筆者は「シニアは資産リッチで問題なし」という議論を疑ってかかっている。無職世帯の家計収支は、公的年金を中心に月平均の収入(税引後)が約15万円で、支出が約20万円。差し引き約5万円の赤字というのが平均像である。年間64万円ほど貯蓄が取り崩される。

こうなると、将来不安は否応なく大きくなる。先々の医療・介護の備えを考えると、貯蓄不足のプレッシャーは「今の貯蓄で十分」と思って消費生活を楽しむ余裕を与えない。

 

たしかに、加齢が進むほどに案ずるよりも産むが易しとなって、不安は後退していくようではあるが、少なくとも60歳代でリタイアした直後では、まだ不安が尽きない。

筆者は、「資産リッチで安泰」という図式が誤っている根拠が世代間ギャップにあるとみている。おそらく、1990年代の早い時期に老後を迎えた人と、2020年以降に老後を迎える人の間には大きな乖離があるだろう。今後シニアになる人は昔のシニアほど資産リッチではなくなる。この現象を引き起こす原因の正体、それがまさしく「年金ギャップ」なのである。

削減という年金支給額の宿命

総務省「家計調査」の総世帯(単身を含む)で、無職世帯と区分された世帯の平均収入をみると、年金生活者の税引後収入は月平均15万円である。この数字は、厚生年金、国民年金といった異なる年金制度を人数ごとに平均したものである。

この数字が将来増えていくならば、まだ収入増への期待をつなげるだろうが、実際はそうではない。むしろ、現役の勤労者の半分になるまで年金支給の水準が切り下げられるのである。

現役世代の平均手取り収入を得る夫と専業主婦の世帯をモデル世帯として仮定し、その50.2%に支給開始時の年金給付額を調整していく。この調整によって、2004年比で2020年の年金給付額は実質15%削減されるとされている。この調整が加わることが、過去と未来の年金ギャップを生むのである。

2004年の年金改革は、「改革」と言っても、年金受給者の待遇を良くするという意味での改良が行われた訳ではない。反対に、これまでの待遇を維持していたならば、年金を掛けている現役世代の積立金によって増え続ける受給者への支払いを賄えなくなるから、現役世代の負担を増やし年金支給額を切り下げようとしている。

改革推進側のロジックは、年金制度が維持可能なように収支バランスを長期間かけて均衡させるから、「100年安心」が得られるということである。

大雑把に言えば、(1)2017年まで厚生年金の積立て保険料率を引き上げる(=負担増)、(2)支給開始時を段階的に60歳から65歳へと引き上げる(=支給減)、(3)物価上昇に対して年金支給額を連動させずに実質的に支給を減らす(=支給減)、の3つが収支改善のツールになる。

年金制度は複雑で、門外漢を寄せ付けないところがあるが、要するに、増えていく無職世帯は、その生活の糧である公的年金が、2004年に敷かれた年金改革のレールの上で削減される運命にあると言える。特に、今後、年金生活に入る人々にとっては、長い長いトンネルへと潜り込むかたちになるので、将来不安はどうしても大きくなる。

絵に描いた餅、年金財政は改善しなかった

それでは年金改革という既定路線がずっと順調に年金収支を改善してきたかというとそうではない。反対に、厚生年金などの収支バランスは、5年ごとのシミュレーション(財政検証)を大きく下振れする状況が続き、とても「100年安心」が履行された訳ではない。

その原因のうち、最も大きなものはデフレである。物価が下がり、さらにより大きく現役世代の賃金も切り下がった。そうなると、物価上昇の想定に基づいて、平均寿命や人数の変化に応じて物価連動幅を下押しさせ、年金収支の改善を狙った「マクロ経済スライド」が効かなくなる。

簡単に説明すると、公的年金は、本来、実質支給水準を維持するために、たとえば2%の物価上昇に対して、2%の支給額物価スライドを実施していた。ところが、マクロ経済スライドは、2004~25年にかけて、一定以上の物価上昇のときだけ、毎年平均0.9%の削減率を課する。

つまり物価上昇が2%だった次の年は、公的年金の増加率は1.1%に割引かれた物価スライドでしか支給額が増えない。前述(3)の実質支給減に対応する仕組みである。

近年の物価上昇が十分に大きかったのは消費税率が上昇した2014年だけだったため、マクロ経済スライドは初めて翌2015年度になって実行された。つまり、2004~14年までは、マクロ経済スライドは絵に描いた餅だったのである。