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医療・健康・食 ライフ

脳が壊れた夫と、発達障害の妻による「ぼくたちの不器用な食卓」

されど愛しきお妻様【16】

41歳で脳梗塞で倒れたルポライターの鈴木大介さんが、「大人の発達障害さん」のお妻様とタッグを組んで過酷な現代社会をサバイブしてきた18年間を振り返る本連載。「炊事と仕事の両立」で倒れてしまった鈴木さん。二度と倒れないよう、お妻様にも協力を仰ぐべく、ある作戦を打ち出します。

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指示がざっくりし過ぎてた

いよいよお妻様と僕の家庭改革も、最終段階へと入っていった。

大人の発達障害なお妻様と共に暮らしていく中、僕自身の脳梗塞発症前から病後にかけても、最も負担になっていたことは、やはりなんと言っても炊事と仕事の両立だった。

セルフケアが苦手というよりもセルフネグレクトに近いお妻様は、食に対しての感心が非常に薄く、細かい好き嫌いはあるものの、いわゆる「10年後の身体は今の食事が作る」とかいった発想とはほど遠い。

しかも生活の時間が微妙にズレている我が家では、最悪1日6回炊事のために台所に立つ必要が出てきて、僕を圧迫し続けた。

お妻様と共に炊事ができるようになる。家庭改革の、これが最後の砦だ。もちろん世の中の夫婦には、夫婦双方が食や健康に無関心で、外食やレトルト中心食というケースも少なくなかろう。

けれども、お妻様は再発率が非常に高く再発後の予後が絶望的な脳腫瘍という爆弾を抱え、僕の煩った脳梗塞も決して再発率が低い病気ではないから、食生活の管理はマストだ。

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だが実は、僕の病後の炊事に関しては、お妻様に少し失望したという記憶もある。まだ自らの障害の当事者認識をベースにしたお妻様の障害への類推も始めたばかりだった退院直後。僕はお妻様にこう言った。

「これまでずっと炊事と仕事の両立が大変で倒れちゃったから、今後はお妻様が3食作って」

お妻様の返答は、曖昧だった。

そして退院後、夫婦お互いの譲れないお願いの交換で「好きな時間に寝て好きな時間に起きる」を提示してきたお妻様が、僕の朝食の時間に起きて来るはずもないし、朝食の準備があるはずもない。起きてきてもきちんと頭が働き出すまでに長時間を要するお妻様に、朝7時には仕事を始めたいと思っている僕が待ちきれるはずもない。

退院して数週間後には「夕食の1食だけはお妻様が作って」に妥協し、さらに「夕食のおかずを1品だけでもいいから作って」まで妥協は進んだが、やっぱりお妻様は僕が腹を減らす夕食の時間になっても、自発的に台所に立つことは出来なかった。

 

だが、もう理解できる。やれなくて当たり前だ。様々な家事をお妻様と共同してこなしていくようになった中で、お妻様が「やれない」理由のほとんどが僕の側にあることが、僕の方だったということが、痛いほどわかるようになった。

大人の発達障害であって、様々な不自由を抱えたお妻様に取って、「ご飯を作って」という指示(お願い)は、あまりにもざっくりとして具体性を欠いている。「夕食だけでも作って」とか「おかずを1品作って」のように言い方を変えても、その難易度は全く変わらない。

病後の僕が気付き学んだことは、こうだったはずだ。まず夫婦間の家事のイニシアチブは、それが必要としている方が握り、もう一方にお手伝いをお願いする。お願いする作業は、徹底的に細かく約分し、1回にひとつの指示だけを出す。その作業が終わるまで、次の指示を出さない。ひとつひとつの作業に感謝の気持ちで返す。

この鉄則のルールに加え、我が家の場合は夫婦の得意分野が真逆なので、僕は僕が面倒だと思う作業をお妻様にお願いする。