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企業・経営 行政・自治体 週刊現代

電通事件を強制捜査した「かとく」の恐るべき調査力

~いま、企業が国税より怯える組織とは

ひとたび、強制捜査が入れば、企業イメージが地に落ちるばかりか、人材も集まらず、株価も下落する。未払いの残業代や罰金も支払わされ、ダメージは長引く。企業はマルサよりも彼らを怖れている。

反論すらできない

電通が近く労働基準法違反の容疑で略式起訴される。広告代理店最大手でさえ、厚生労働省東京労働局過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」からは逃れられないのか――。電通が受けた処分は、多くの企業に衝撃を与えている。

発端は一人の女性の死だった。'15年12月に新入社員の高橋まつりさん(享年24)が、長期間にわたる過重労働を苦にして自死を選んだ。

昨年11月には電通本社にかとくの強制捜査が入り、自他ともに認める広告業界のガリバーはブラック企業の烙印を押され、評判は失墜した。

「亡くなった彼女のことはかわいそうだし、ご遺族の無念はいかばかりかと思います。しかし、かとくによる強制捜査と検察の起訴は、行政が彼女の死を『利用』したようにも見えます。

というのも、政府は『働き方改革』と称して、長時間労働の規制に乗り出しています。そのさなかに起こった電通事件で世論を味方につけ、有名企業に対して高圧的な捜査を行うことで、他の企業にも睨みを利かす『一罰百戒』の効果を狙ったのではないか」(全国紙厚労省担当記者)

電通は昔から体育会系の社風で知られ、労働時間も長く、その業務内容も激烈を極めることで有名だった。

その象徴が、4代目社長で「電通中興の祖」と呼ばれた吉田秀雄氏(故人)が定めた「鬼十則」だ。

曰く、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…」。死に物狂いで仕事をすること――それが同社の社風でもあった。だからこそ、広告業界のリーディングカンパニーに育ったという一面もあるだろう。

しかし、一連のかとくの捜査もあって、世間の批判が高まり、今年度から「鬼十則」が社員手帳に掲載されることはなくなった。本社ビルの22時消灯は昨年から続く。

電通の「社風」や「会社文化」そのものが根本から否定されたのだ。

ある一部上場企業の人事担当者はこのような悩みを打ち明ける。

「労働基準監督署に入られたことがありますが、彼らは月80時間の残業は『過労死ライン』に抵触するから改善しなさいの一点張りです。

ましてや月100時間を超える残業は今後、罰則が加えられる可能性が高いから認められない。ルールで決まっているからと『正論』で攻めてくる。だから反論ができない。

私たちも社員の意に沿わない長時間労働をさせているわけではありません。どうしても必要な残業だってあるわけで、それでも監督官に言わせれば、ルール違反。目をつけられないようにしたいが、どこまで対処すればいいのか……。そもそもそんなことが可能なのか。

かつては国税に入られることが怖かったですが、今はかとくに入られることのほうが比べものにならないほど恐ろしい」

 

かとくはこれまで電通に加え、靴販売のABCマート、外食チェーンのフジオフードシステム、ディスカウントストアのドン・キホーテ、外食チェーンのサトレストランシステムズ、スーパーマーケットのコノミヤ、直近では旅行会社のHISの7社に強制捜査を行い、法人としてのみならず、労務担当など、現役社員も書類送検してきた。

これらのケースでは検察が個人については不起訴処分とし、法人のみを略式起訴としているが、今後、悪質なケースがあれば、個人が起訴されることも十分考えられる。

法廷で違法と判断されれば、社員が「犯罪者」になる可能性もあるのだ。