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週刊現代

旅と食をこよなく愛する、異色のノンフィクション作家の「バイブル」

好奇心こそが物書きの原動力

頭を殴られたような衝撃

旅するように生きていきたい。10代、20代の頃、そんなことばかり考えていました。僕ら団塊ジュニア世代は、青春時代に海の向こうの異国に思いを馳せた世代です。iPadはもちろん、ケータイもネットもない。多くの同世代がバックパックを背負い、格安航空券を握りしめ、貧乏旅行に明け暮れました。

そんな旅人たちのバイブルが沢木耕太郎さんの『深夜特急』でした。そこに登場する「香港」「マカオ」「クアラルンプール」など、見知らぬアジアの都市の名前を口ずさんでは憧れを募らせたものです。

深夜特急

中でもカンボジアは思い出の国です。当時、貪るように読んだのが神保哲生さんの『地雷リポート』。私が旅にのめり込んだ'90年代後半は、東西冷戦こそ終わっていましたが、アジアを歩けば戦争の残滓に遭遇しました。平和な日本では考えられない現実を目の当たりにする度に、頭を棍棒で殴られたような衝撃を覚えました。

昭和解体

当時、カンボジアは深刻な地雷被害に苦しんでいましたが、この本を読んで、それがカンボジアだけではなく、世界の問題と地続きであることを知ったのです。

 

さて、1位の『大冒険時代』は、私が28歳でノンフィクションライターとして独立した時に、「一歩」というペンネームをつけてくれた編集者からお祝いでもらった一冊です。この本は、およそ100年前のナショナル・ジオグラフィック誌に掲載された冒険旅行記が元になっています。

大冒険時代

秀逸なのは、例えば、コンティキ号と名付けた筏で、南太平洋を横断したトール・ヘイエルダールなど著名な冒険家だけではなく、外交官、兵士、流刑者などの様々な階級、立場の人間による旅行記であるということ。

これを読むと無性に旅に出たい衝動に駆られます。最近は忙しいことを理由に旅をする時間がありませんが、いつでも手にとれる場所に置いて読み返しています。

沖縄に横たわるもう一つの問題

2位に挙げた川本三郎さんの『雑踏の社会学』は物書きとして特に影響を受けた一冊です。私がライターを始めた頃は街中に喫茶店があって、昼日中から新聞記者や編集者のたまり場になっていました。同時にそこは、その街で暮らす人の生活の場でもありました。

どこにいても簡単に情報が手に入る時代だからこそ、こうした雑踏に身を置いて、そこで暮らしている人々の声に耳をそばだて、目をこらしたい。それが取材者だと、この本にハッキリ教えられました。

3位は『小林カツ代 料理の辞典』です。今年、『小林カツ代伝』という彼女の評伝を上梓しました。彼女は日本の食卓にいち早く「時短」という概念を取り入れ、その合理的でユニークなレシピは、社会進出を果たした働く世代の女性のバイブルとなった本です。

辞典というだけあって、すべて文字だけの料理本です。収録されている2448のレシピが全てオリジナル。実用的でありながら、読むだけでも楽しい。だから、僕は友達が結婚する時には必ずこの本をプレゼントしています。