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パラリンピックは「テクノロジー×肉体」の融合を争う大会になる

いまオリンピックが試されている

「障害者の方が健常者よりもいい記録を出せる時代が来る」――。そう語るのは義足エンジニアの遠藤謙氏だ。実際、男子走り幅跳びの記録は義足の選手の方が高い。

ベストセラー『五体不満足』の著者でコメンテーター・スポーツライターとしても活躍する乙武洋匡氏が、そんな義足の世界の魅力を遠藤氏にインタビューする。

(前編はこちらから)

取材・文/友清哲

世界最速はパラが取る時代が来る

乙武洋匡 義足の進化によって、障害者の記録が健常者を上回るのが当たり前になると、オリンピックとパラリンピックの関係も変わってきますよね。従来はオリンピックが正規の大会で、パラリンピックはリハビリの延長線上のようにイメージされてきました。しかしそのうち、“世界最速”を決める大会はパラリンピックになりかねないわけです。

遠藤謙 というより、必ずそうなると僕は思っています。最先端の義足をつけた選手が健常者を凌駕するようになると、オリンピックよりもパラリンピックに興味を持つ人も増えるでしょう。オリンピックもスポンサービジネスですから、今後はいかに競技を面白くしていくかが問題になりそうです。

乙武 言い換えると、パラリンピックは「テクノロジー×肉体」の融合を争う大会になり得るわけですよね。

遠藤 その通りです。義足というと、肉体的に劣っている部分を技術で補うという、メガネに近いものと考えている人が多いと思います。でも、これからは技術によって人間の肉体以上の能力を加えるものにもなり得るんです。

遠藤謙氏義足エンジニアの遠藤謙氏

乙武 ひとつのモデルになりそうなのが、F1ですよね。オリンピックの面白さが、人間がどれだけ速く走れるのか、どれだけ高く飛べるのかといった、肉体の限界に対する挑戦にあるとすれば、F1には「技術力」という要素がプラスされます。

ドライバーのテクニックに加え、技術力を結集させてどれだけ速く走れるマシンを作るかという魅力がある。F1にあれほど多くの人々が熱狂しているのを見ると、パラリンピックにも同様のポテンシャルを感じるんですよね。

遠藤 同感です。そして、パラリンピックで競うために磨かれた技術は、その後、様々な方面に転用できます。たとえば乙武さんが歩いたり走ったりできる義足を開発したとして、それを乙武さんより軽度な障害者が使えるようにするのは、比較的簡単なことなんです。

乙武 なるほど。アスリートではない一般の障害者のための技術革新という意味でも、パラリンピックは今よりもっと有意義な大会になり得るわけですね。

遠藤 そうですね。私見では、F1で培われた技術が普通の乗用車に転用される流れよりも、社会に与える恩恵は大きいのではないかと思います。

乙武 しかし気になるのは、欠損している部分が大きいほど新しい技術を組み込む余地が多いと考えると、そのうち、残っているもう片方の足を切断して記録向上を目指すアスリートが出てくるかもしれない、ということです。

遠藤 日頃接している障害者アスリートの気質を考えると、それは十分にあり得ると思いますよ。義足のスプリンターであるオスカー・ピストリウス選手は、もともと先天性腓骨欠損症という障害を抱えて生まれてきました。

つまり、足を残す選択肢もあったのですが、彼の両親は彼が小さいときに両足とも切断するという判断をしたわけです。なぜなら、切れば走れるようになるからです。

乙武 なるほど。もし切らずに足を残せば走ることはできないし、歩くのにも杖が必要な状態だったかもしれないわけですから、結果的には功を奏したと言えるのかもしれません。

 

遠藤 こういう判断は、義足の進化とともに今後増えていくでしょう。たとえば、健常者でも加齢とともに歩く機能を失ったとき、その脚を残したまま生活するか、切断して義足を使うか。これは難しい判断だと思いませんか?

乙武 まあ、抵抗はあるでしょうけれど、「切断して義足生活を選ぶ」という人も、少なくはないのかもしれません。

遠藤 再び歩けるようになるという希望がどれだけあるかにもよりますが、僕は義足を使った方が歩きやすいのであれば、切断して義足を使うことを選ぶと思います。それに、介護の問題を考えると、脚を残すよりも義足を使ったほうが体重が減り、介護がしやすくなるというメリットもありますよね。

乙武 たしかに、私は四肢がない分、手足があるけれど動けない方よりも体重が軽いので、介護がしやすいという面もあります。うーん、これは価値観の大転換が起こるのかもしれません。

これまでは、できるだけ五体満足に近いかたちで身体を残したほうがハンディキャップが少ないと考えられてきました。ところが技術の進歩によって、中途半端に残すくらいならなくしてしまったほうが機能が上がるようになったわけです。