Photo by Getty Images
EU

止まらない欧州「絶望のテロ・パンデミック」”感染源”の街を歩く

日本も間もなく感染…? 

テロという止められない”感染症”

欧州のテロ対策担当者は、イスラム過激派思想を”感染症”にたとえる。誰も気付かぬうちに発生し、家族に感染する。そのまま放置していると、地域に感染し、さらに爆発的な感染=パンデミックを引き起こす。重要なのは感染初期の段階で抑え、感染者を”隔離”することなのだが、それは簡単ではない。

このパンデミックを経験した街がある。ベルギーの首都ブリュッセル郊外にあるモレンベークだ。爆弾や銃乱射で多くの犠牲者を出したパリの連続テロ、ブリュッセルの同時テロを引き起こしたテロリストたちが住んでいた街である。

モレンベークで目を光らせる治安機関員モレンベークで街に目を光らせる治安機関員(撮影:竹内明)
拡大画像表示

6月20日の夜、このモレンベークが再び世界のテロ対策担当者に注目される事件が起きた。ブリュッセル中央駅構内で、男が「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んで、スーツケースを爆発させた。爆弾は釘とガスボンベで作られた稚拙なものだったうえ、完全には爆発しなかったため、けが人は出なかった。男は警戒に当たっていた兵士に撃たれて死亡したが、自爆装置が仕掛けられていることを恐れ、遺体は駅構内に数時間放置されたという。

このテロリストは36歳のモロッコ系の男で、IS(イスラム国)に感化されていた。最大の問題は、男の住所が「モレンベーク」で、複数の性犯罪や薬物の前科があったことだ。欧州某国のテロ対策官はこう言う。

「モレンベークの失敗には、テロ対策のヒントがある。いま世界の治安機関はその失敗から学ぼうとしています」

パンデミックの発生源を歩く

ドナルド・トランプは大統領選のさなかの去年、こう発言してベルギー人たちの反発を招いた。

「20年前、私がベルギーに行ったとき、街全体がおとぎ話のように美しかった。あの街ではいま、良くないことが進行している。今ではhellhole(悪の巣窟)に住むようなものだ」

「悪の巣窟」という表現はあまりに稚拙だが、トランプの念頭にはおそらくモレンベークがあったのだろう。この街は、ブリュッセル中心部から北西に3キロ、車で十分ほどの距離にある。チュニジア、モロッコ、アルジェリアなど北アフリカ・マグレブ地域の移民が多く住む。

路地には商店がひしめくモレンベークの移民街には路地に商店がひしめく(撮影:竹内明)
拡大画像表示

次々とテロリストを生み出し、「過激派のハブ」「NO-GO ZONE(立ち入り禁止区域)」との悪名が轟くこの街は、欧州の宿痾を象徴するといっていいだろう。

筆者は二度、この町を訪ねている。ひと言で言うと、ここは絶望の町だ。

「若者の失業率は50%、2人に1人が失業しています。若者たちは『未来はない』と思うようになり、それが外部世界への怒りに変化している。気をつけないと危ないですよ」

取材に協力した住民は、周囲の目を気にしながら筆者にこう忠告した。人口は10万人弱。ブリュッセルの2倍の人口密集地だ。昼間から男たちが道端にたむろし、商店街ではドラッグの密売が行われている。カメラを向けようとすると、取り囲まれ、怒鳴られた。

この街が、その凶暴性をむき出しにするのは、夜になってからだ。

筆者が公園近くを歩いていると、少年たちの集団が瓶を投げつけてきて、路上にガラス片が散乱した。白人の女性記者がカメラを奪われそうになり、男たちの集団に引きずり回されていた。銃声もすぐ近くで聞こえた。「よそ者は帰れ」という忠告に、生命の危険すら感じ逃げ帰った。