いま住んでいるところから電車でひと駅の町にヨドバシカメラがある。開店して20年にはなるだろうか。いろんな物を買った。
もっともたくさん、しかも頻繁に買ったのは、フィルムだ。何種類ものカラー・リヴァーサル・フィルムが山積みされていた。買いにいくたびに、そこから選ぶのだ。
その作業は楽しかった。結果として、じつに多様なカラー・リヴァーサル・フィルムを買い、使うことになった。いろんなフィルムを使ってますね、アグファがありましたよ、と富士フィルムの人に言われたことがある。
カラー・リヴァーサル・フィルムを10本ほど選んで買うのに、けっして一時間はかからなかった。そのあいだに、『ヨドバシカメラの歌』を7回や8回は、主として聴覚で受けとめたのではなかったか。店内で盛んに再生されていたからだ。日本の女性歌手が日本語で歌うのと、おなじ歌手が英語で歌うのと、ふたとおりあった。
いまヨドバシカメラの店内に入っても、この歌を聞くことは出来ない。少なくとも僕の近所の店では再生されていないから。この歌を聞かなくなって7、8年は経過しているだろう。
日本語の歌詞の、新宿本店におけるもっとも基本的な部分は、次のとおりだ。
「まあるい緑の山手線
まんなか通るは中央線
新宿西口駅の前
カメラはヨドバシカメラ」
おなじ女性歌手が英語の歌詞でも歌っていることは知っていたが、増えつつある外国からの客を意識してのことだろう、という程度の認識を越えるものではなかった。
その英語の歌詞で、自分が聞き取れたところを披露し合うというごく軽い遊びが、飲み屋の席で流行のようになった時期があった。英語の歌詞に僕が注意を向けるようになったのは、このときからだ。