生命科学

山中伸弥先生「話題の書」が教える「iPS細胞ができるまで」

芦田愛菜さん推薦で売れに売れています

女優の芦田愛菜さんがテレビ番組で「一番魂が震えた本」と紹介し、大きな話題を呼んだのが、山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみただ。

iPS細胞で何ができるのか? 芦田さんの番組紹介以来売れに売れている同書の中から、世紀の大発見にいたるまでの熾烈な開発競争と、iPS細胞の未来を語った部分を公開する。

信じてもらえない!

ES細胞のような増殖力と分化多能性を持つ細胞。この新しい細胞に、ぼくはInduced Pluripotent Stem Cellsという名前を付けました。日本語では「人工多能性幹細胞」、略称はiPS細胞です。

最初の文字を小文字にしたのは、当時、流行していた携帯型デジタル音楽プレーヤーのiPodにあやかりました。自分で発見して名付けた遺伝子の名前が使われなかった過去の苦い経験から、なるべく覚えやすい名前にしたかったからです。

論文を発表した直後、アメリカのコールド・スプリング・ハーバー研究所で、iPS細胞に関する研究会が開かれて、ぼくも参加しました。コールド・スプリング・ハーバー研究所は100年以上の歴史を持つ生物学・医学研究の拠点で、当時は、DNA二重らせん構造の発見者の一人ジェイムズ・ワトソン先生が会長(2007年まで)をされていました。

4、5日間連続の研究会で、しかも研究所がニューヨークからかなり離れた場所にあるため、参加者は研究所近辺に宿泊していました。夜9時を回ると、バーに繰り出してお酒を飲む人も多く、ぼくも行ってみました。

すでに人がいっぱいでしたが、4、5人が立ち話をしている中に、知っている顔を見つけたので近寄ってみると、

「4個でできるなんてありえへん」
「おかしい」

といった声が聞こえてきます。この輪に入りたいけど、なんとなく入りにくい雰囲気でした。僕がすぐ横にいることに気づいて、みんなばつが悪そうでした。

ぼくら自身、たった4つの遺伝子で体細胞を初期化できるという結果に驚いていたので、「おかしい」と思われるのも、ある意味、当然でした。

とくに4つのうちKlf4については、ES細胞究者の業界内ではあまり知られていない遺伝子だったので、なぜそれに注目したのかと不思議に思った人もいたかもしれませんが、結果的には、ES細胞にとって本当に大切な遺伝子でした。

「コロンブスの卵」と同じように、いったんわかってしまえば、「それはそうやろう」と納得できる4つの遺伝子だったわけです。