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なぜ日本では谷口ジローの才能が評価されないのか

関川夏央さんが選んだ「この10冊」

評価の低い天才マンガ家

近年ヨーロッパでの日本マンガの評価はきわめて高く、とりわけ今年2月に亡くなった谷口ジローの追悼記事は仏紙「ル・モンド(電子版)」に載り、日本の新聞よりかなり大きく取り上げられました。

そこに「祖国でよりフランスで愛された作家」と書いた異国の記者に「何を生意気な」と反発心も抱きましたが、フランス国内での評価を見ると本当にそうらしいです。

'70年代後半から20年間、『「坊っちゃん」の時代』などで谷口と作品を共にしたからでしょう。私もフランスの日本マンガ専門誌からインタビューを受けました。

記者が強い関心を示した『海景酒店』は、いわゆるハードボイルド・マンガのアンソロジーで、日本ではさして注目されなかった作品です。問われたのは巻末の短編「東京式殺人」について。外国人の視点から日本のヤクザ社会を描いた作品なんですが、そのシナリオを担当したアラン・ソーモンは今どこにいるのかと尋ねられたのです。

海景酒店

フランスのネット上で彼は「'80年代の日本留学時、ヤクザの組での見習い経験を生かして谷口ジローにシナリオを提供、その後、筆を折った」と紹介されているそうです。

30年も経ったので「彼は私がつくった架空の人物で、シナリオも私が書いた」と真相を明かすと彼らは驚きました。そうした遊びというか「プラクティカル・ジョーク」もまた、私が谷口と共に目指したものでした。

谷口ジローはつねに新しい技法を発見しようと努力する天才でした。それまでスクリーン・トーン使いの名人として白と黒の中間色を基本にしていた彼が、「東京式殺人」では白と黒のコントラストだけで、外国人の眼に映る「日本の暴力と人間関係の不思議さ」を表現している。

この作品を1位に置いたのは、世界的作家となった彼をあらためて顕彰したいと思ったわけです。言いかえれば、日本での彼の評価に私は不満なのです。

 

漱石作品が今も読まれる理由

2位は高野文子の『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』。『チボー家の人々』はかつてどの学校の図書館にも必ず置いてあったフランスの教養小説です。その作品世界に没入してゆく田家実地子を主人公とし、物語が展開される。

第一次世界大戦後、革命談義を交わすパリの若者と、新潟の平凡な女子高生の成長を並走するようにして描いたという意味で傑出した教養マンガです。

黄色い本

岡崎京子『リバーズ・エッジ』は、川べりの草むらで発見した死体を男女が互いの秘密にし、ときおり覗きにやってくるというストーリー。大都会の高校生たちの生活とセンスを主題とした青春・恐怖マンガの傑作です。

リバース・エッジ

'90年代以降、岡崎さんがリアルな表現を重視したのに対して、別角度から日本文学に大きな影響を与えたのが大島弓子です。

秋日子かく語りき』は、交通事故に遭ったおばさんが女学生の身体を借りて生き返る話。現実はあやふやなもので「見方を変えるだけで、ひとは別世界を生きることができる」という考えを示しています。