photo by Getty Images
防衛・安全保障 国際・外交 北朝鮮

北朝鮮は米国に対する「相互抑止」を確立しつつある

北の軍事能力をいま一度冷静に分析する

北朝鮮の金正恩体制が発足した当初、日本では例の如く北朝鮮崩壊論が沸き起こった。しかし、その後の5年間、米国に全面戦争を挑むでもなく、内部から崩壊するでもなく、核実験とミサイル発射をはじめとする挑発行動を繰り返してきたのである。

どのようにこの5年を生き残ってきたのか、そして今後はどのような展開になるのか。主に戦略的側面に焦点を当てて、筆者の個人的見解を紹介したい。

5年前に予想した通りに

金正恩が朝鮮人民軍最高司令官に就任した直後の2012年1月、筆者は来るべき体制について次のように予想した。

「……北朝鮮は今後も『先軍政治』を基調として『強盛国家(又は大国)』建設に向けて邁進するであろう。その過程で、金正恩は、金日成や金正日が行ったように、粛清と恐怖政治を基盤に独自の統治思想や指導スタイルを作り上げていくかもしれない。」(「見えてきた金正恩体制とその安全保障政策の方向」防衛研究所『NIDSコメンタリー』第24号〈2012年1月23日〉、2頁。)

筆者はこの当初の予想は、ほぼ的中したと思っている。

 

まず、金正恩体制は、2013年に「先軍政治」を「先軍思想」として従来の「主体思想」とともに北朝鮮の国家的2大指導思想として位置付けた。さらに、1960年代に祖父である金日成が打ち出した軍事と経済の「並進路線」を模範として、核開発と経済発展を同時に推進する新たな「並進路線」を掲げた。

北朝鮮はこの路線を「自衛的核武力を強化し、発展させて国の防衛力を鉄壁に固め、経済建設にさらなる力を入れて社会主義強盛国家を建設するための最も革命的で人民的な路線」と定義している。

他方、粛清と恐怖政治については、2013年12月、叔父であり後見人であった張成沢(元国防委員会副委員長)を粛清し、叔母である金慶喜を政治的に排除した。さらに、北朝鮮の最高規範である「党の唯一の思想体系確立の10大原則」が39年ぶりに「党の唯一領導体系確立の10大原則」と改定され、金正恩を中心とした「唯一独裁」が強化されている。

「有言実行型」「戦略家型」指導者

また金正恩の思考のあり方については、評価は必ずしも定まっていない(もっとも、彼に好印象を持つ人はほとんどいないであろうが)。

金正恩の存在がより注目されるようになった2010年ごろは、「スイス留学の経験があるから西側の思想や文化をよく理解している」、「北朝鮮の最高指導者になったら改革開放に向かうだろう」というような楽観論も聞かれた。しかし、過去5年間のさまざまな挑発行動を見せつけられた世界中の人々の多くは、「金正恩は何を考えていているか解らない」、「狂人ではないか」、「理性的ではない」との印象を持っているであろう。

筆者は昨年、金正恩が最高指導者に就任してからのすべての「労作」(2012年から15年までの主要な談話や演説等)を人工知能(AI)を一部用いた認知構造図法という手法で分析した。その結果、彼が言動一致度の高い「有言実行型」であり、合目的合理性の高い「戦略家型」の指導者であるとの結論に達した。

もちろん、金正恩が予告した挑発行動の中には、まだ実行されていないものもあり、彼が完璧な「有言実行型」であるかについての検証は終わっていない。また、「核実験など想像もしたこともない」と明言したにもかかわらず、何ヶ月も経ってから核実験を実施したなどの例外もあり、言動不一致、または嘘つきの側面もある。

ちなみに、北朝鮮の嘘つきの側面は、専門的には「戦略的(または戦術的)欺瞞」と呼ぶこともある。つまり、嘘つきも戦略性の一部ということである。