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もしも一流誌の記者が、スタートアップ企業に「転職」したら…

話題の書の一部を特別公開!

ある日突然『ニューズウィーク』をリストラされたダンは、「IPOでひともうけできたら」と不純な動機を忍ばせてIT系スタートアップに転職。毒舌おじさん記者が見た、幼稚な起業家と愚かな投資家の世界とは?

 

幼稚な起業家と愚かな投資家

シリコンバレーの新たな投資家の中には、ハリウッドセレブなど、ウォール街が「愚かな投資家(ダムマネー)」と呼ぶ人々も含まれている。実は誰も彼もがダムマネーだ。何がものになり、どの企業が成功するかなど、誰にもわからないのだから。

投資家の中には、お金をただまき散らしている人もいる。これは、「ばらまいて祈れ(スプレー&プレー)」と呼ばれるやり方だ。1発が運よく次のフェイスブックに当たって、残りの不発弾を補ってあまりある利益をもたらしてくれることを祈ろう、ってわけだ。

起業家の多くも、投資家に負けないくらい未熟で経験不足だ。どんな商品やサービスをつくるつもりか自分でもわからぬまま、資金を調達する者もいる。多くは会社経営の経験がなく、働いた経験すらない者もいる。

 

かつてIT産業を動かしていたのは、エンジニアとMBA取得者だったが、今業界に息づいているのは、道徳心の薄いやり手の若者たちだ。この若者たち(ほぼ全員が男)は、映画『ソーシャル・ネットワーク』を観に行って、ウソつきでぬすっとで裏切り者のヤなやつとして描かれていたマーク・ザッカーバーグを見て、「ああなりたい!」と劇場をあとにした人たちだ。多くが大学出たてか、卒業すらしていない。

ベンチャー投資家が若い創業者に投資したがる理由はわかる。会社づくりはハードだし、なるべく安く進めたい。それに、経験に乏しい創業者は、だまされて投資家に有利な条件で契約してくれることもある。

投資家はプロデューサー、CEOは主演俳優

投資家が若者に資金を投じる理由がある。それは、新しいテクノロジー企業の多くが、実はテクノロジーが売りではないこと。彼らのビジネスはソーシャルメディアやゲームといった、エンターテインメント・ビジネスに近いものだ。レコード・レーベルを経営しているなら、55歳の新人ラッパーに投資するだろうか? 60歳のスーパーヒーローの映画をつくるだろうか?

「スタートアップ企業」は映画づくりにも似ている。投資家がプロデューサーで、CEOは主演男優だ。プロデューサーはできれば、マーク・ザッカーバーグのようなスターを獲得したい。若くて、なるべくなら大学中退者で、アスペルガー気味の若者がいい。

それから台本、「起業の物語」を書こう。さまざまな壁を乗り越え、ドラゴンを退治し、市場を破壊し、変革していく感動の「物語」だ。映画づくりのように、会社づくりに何百万ドルも投資したら、次は宣伝に何百万ドルも投資して、顧客を獲得する。

「IPOに至る頃には、人々が初日の上映を待ちきれず、劇場の周りに長蛇の列をつくっている状態が望ましい。うまくやれば、観客がお金をもたらし、きちんと投資を回収できる」

素人ばかりの経営は思わしくなく、赤字は積み上がっていくけれど、売上だけは伸びていく。株価があがったところでIPOにこぎつければ「ストーリー」は完成する。