社会保障・雇用・労働
霞ヶ関を飛び出した若手官僚二人が設立した「青山社中株式会社」
世界で戦える人材を育てるために

 30代半ばの2人の若手キャリア官僚が昨年秋、「霞が関」からスピンアウトし、シンクタンク「青山社中株式会社」(資本金700万円、本社・港区南青山)を設立した。主な事業は、「人づくり」「政策づくり」「組織づくり」。世界に誇れ、世界で戦える日本を創るための人材、政策、組織づくりを行っていくのが狙いだ。「亀山社中」を作った幕末の志士坂本龍馬の命日である11月15日に会社を設立したことと、会社の所在地を掛け合わせて、「青山社中」とした。

朝比奈一郎氏

 主要メンバーは3人。筆頭代表を務める経済産業省出身の朝比奈一郎氏と共同代表で元文部科学省の遠藤洋路氏のほか、社外パートナーとして現在は民間企業の役員を務めている元文部科学省の神谷学氏だ。朝比奈氏と遠藤氏は、03年に政治主導の仕組みを提言する若手官僚約10人が立ち上げた「プロジェクトK」の中心メンバーでもあった。

 朝比奈氏は「『霞が関』自体、成績が一向に上向かない『受験生』のようになっている。朝から晩まで頑張って働いても世の中は変わらない。やり方を変えたいとの思いから『プロジェクトK』を創設した」と話す。「プロジェクトK」で提案した「総合戦略本部」設置などの提案は、民主党政権の「国家戦略室」として実現した。しかし、官僚のままではどうしても言動に制約があるため、独立した。

魂に火をつける教育

 その朝比奈氏が塾頭となり、「青山社中リーダー塾」が5月21日から開講する。本稿のメインテーマはこれである。

「シンクタンクとして政策提言だけに力を入れるのではなく、アクトタンクとして現状打破して世の中を変えていく人材を育成したい。損得を無視して社会変革のために動けるような人材を養成するため、『魂に火をつける教育』を目指したい」。朝比奈氏は塾設立の趣旨をこう説明する。

 学問や知識は実行の中で検証されなければならないことを強く意識した吉田松陰が実践のための感化の場を与えた「松下村塾」、「少年よ大志を抱け」で知られるクラーク博士が指導した「札幌農学校」といった、幕末から明治にかけて新しい時代を創り出す人材を養成した塾や学校を運営にあたっての理想像に掲げている。

 開塾にあたり5つの大きな方針を示している。

1)若手が若手を教えることで押し付けにならない個性の引き出しを目指す
2)師と弟が一体となり、車座で議論をする
3)原則として1人による教育とし、網羅性よりも伝達力を重視する
4)少人数制により塾生同士の横のつながり、チームとしての意識を持つようにする
5)知識の受信だけではなく、自らの考えの発信を重視する

 筆者は、これまでも本コラムで教育の劣化に関して指摘してきたが、こうした志や方針に好感を抱いた。今の社会では一般的に、自分の昇進や金儲けのためにスキルを習得する、いわゆる「ハウツー」について関心のある人が多く、教育機関も「顧客」欲しさから世の中のトレンドに迎合する動きがある。

 しかし、実際に世の中を変えるような人材、自ら考えて自らの責任感から動くような人材は、ハウツー教育からは生まれないと筆者は強く感じている。朝比奈氏も指摘するように、誰からか薫陶を受けて魂に火がつき、ある種の「狂気」をもったような人材でなければ世の中は動かせない。

 歴史上の人物をみても、織田信長や坂本龍馬は、損得ではなく自分が抱く理念を中心に動き、「狂気」を持っていたように思われる。「狂気」であるが故に2人は既得権益者とぶつかり、ともに殺害された。かだ、信長や龍馬の「狂気」が後の世を大きく変えたことは歴史が証明している。

 また、政治家や教育者、経営者らを社会のリーダーたる人材、あるいはそのリーダーを育成する人材が「オールサラリーマン化」しつつあることも、自立的な人材が生まれないことの背景にあると思う。朝比奈氏は「脱藩」し、国家公務員という安定的な身分を打ち捨てて、人材育成に挑んでいるように映る。こうした点にも共感を覚える。

 筆者は大学院時代の修士論文で23人の起業家のキャリアを研究し、起業家の受けた教育や経験が起業にどのような影響を与えたのかを考察した経験がある。その研究プロセスで23人をインタビューした際に多くの起業家が「MBA的な勉強で財務やマーケティングを起業前に学んでいたら、失敗した時のことが怖くなり、おそらく起業できなかった」と答えた人が目立った。

 むしろ「失敗したら日雇い労働者になる覚悟で臨んだ」「あなたの志を貫いてと妻が背中を押してくれた」といった精神論的な要因が起業に結び付いていたことが分かった。こうした意味でも、魂に火を付ける教育は重要だと感じている。

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