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中国人の眼に映る今の日本は「20世紀」のままだった…

過去の栄光にしがみついてる場合か

北京人から見た東京の印象

けやきの樹々がキラキラと万緑の葉をなびかせる東京六本木・けやき坂通りのフレンチ・カフェ。私はそこで、5年ぶりに北京人のAさん(32歳)と再会した。

私は2009年から2012年まで講談社北京に勤務していたが、彼女は私がその時に採用した中国人社員の一人だった。当時、彼女は東京の名門大学の大学院を出たばかりで、大変優秀な社員だった。

私が帰任してまもなく、彼女は講談社北京を辞め、北京のIT企業に転職して成功した。結婚してマンションも買ったが、このたび日本の大手IT企業に中国事業の統括者候補としてヘッドハンティングされた。そこで意を決して、中国人の夫と共に東京に住むことにしたのだという。

いまや高級スーツに身をかためた「六本木ヒルズ族」となった私のかつての部下は、開口一番、こう言った。

「私が東京へ来て最初に買ったものは何だと思います? これですよ」

そう言って彼女は、可愛らしい柄の財布を、ポンとテーブルに置いた。

「中国ではもう数年前から、キャッシュレス社会になっています。スーパー、コンビニ、タクシー、レストランから屋台に至るまで、すべてスマホ決済です。カバンの中には一応、10元札(約160円)を一枚だけ入れていましたが、それは万が一スマホをどこかに置き忘れたときのためです。

私は現金を使うなんて、20世紀の映画かドラマの世界のことと思っていました。だから北京から東京に引っ越したら、まるで21世紀の世界から20世紀の世界に舞い戻ったような気分になったんです」

 

私はやおら興味を覚え、他にも東京の印象を聞いてみた。

「そうですね、ひと言でいえば、何もかも安いなという感じです。例えば、東京のデパートやスーパーで買い物をしたり、レストランで食事したりしていても、北京よりだいたい2割ぐらいは安いイメージです。

東京ではアパートを借りたのですが、家賃も北京より2割安かった。ちなみに給料も2割くらい下がったので、生活レベルとしてはトントンですが」

そう言って彼女は、屈託なく笑った。

私は彼女に、「それではなぜ東京に来たの?」と聞いてみた。

「東京には、北京にはない3つのものがあるからです。それは安静(静けさ)、幹浄(清潔さ)、安全です。

安静(アンジン)というのは、街が安静ということもありますが、社会が安静ということでもあります。例えば、世界最大の競争社会である中国では、24時間365日気が休まる時がなく、私がいたIT業界では二人の知人が過労死しました。それが日本企業に入社したら、残業がほとんどないので驚いています。

幹浄(カンジン)というのは、何と言っても空気のおいしさですね。長年、のどの痛みに悩まされてきましたが、東京に来て一週間で治りました。

安全(アンチュエン)というのは、東京では北京と違って、手荷物検査なしで地下鉄に乗れます。食品を買う時も、わざわざ安全を確かめなくても大丈夫です。

総じていえば、北京での生活は疲れますし、これから子育てをしたりすることを考えたら、東京の方が暮らしやすいと思ったんです」