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エンタメ 週刊現代

作家・諸田玲子がハマった女の「野心=欲望」を描いたミステリ10作

不思議で、底知れなくて、面白い

スポットの当たらない女たち

40歳を超えて時代小説を書き始めたとき、私には、今までにないものを書きたいという気持ちがありました。それで、歴史の中で見向きもされてこなかったような人、とりわけ女性を取り上げようと思ったんですね。

しかもただ女性を書くだけではなく、心理をきめ細かく描き出したい。当然のことながら、女性にもいろいろいるわけです。そう考えたときにふと浮かんだのが、今回挙げた、海外ミステリを中心とする作品でした。

時代小説とジャンルはまったく違うけれど、どの作品も人間の心理を深く抉っている。ミステリは好きで最近のものも読みますが、『羊たちの沈黙』以降、作品全体の傾向が変わったような気がしています。

殺し方の複雑さとか、謎解きに比重が置かれるようになった。読むには面白いですが、時代物を書くときに役立っているのが、心理ドラマが際立つ昔の作品です。

1位に挙げた『レベッカ』は、貴族の後妻になった女性が、先妻の影に追い詰められていく物語です。不安と嫉妬に囚われて夫を信じていいのかわからなくなっていく、その過程こそがサスペンスなんですね。

レベッカ

悲しみよこんにちは』は、いわゆるミステリ小説ではないけれど、女の不可思議な本質を描いているという点で心理ミステリに通じると思います。大人を死に追いやってしまう少女の無邪気な残酷さには、ぞっとするし、納得もするんです。

悲しみよこんにちは

わらの女』も『シンデレラの罠』もそうなのですが、フランスの小説はクセがある作品が多いと感じます。それは大学でアメリカ演劇をやっていた私にとって、新鮮でした。

 

アメリカの作品って、わりとドラスティックなものが多いんですよ。社会に対して、権力に対して立ち上がろうというような直情的な展開が多く、だから清々しく感動を呼ぶんですね。

対してフランスのミステリは、一捻りどころか二捻りくらいしてある感じ。エレガントで独特な雰囲気をまとっているだけに、胸を抉られるショックは大きく、もう一度読んでみたいと思わされます。

AIと人間何が違うのか

シンデレラの罠』は、何度読み返しても、結末がわからない(笑)。幼馴染の若い女性二人が火事に遭い、一人は命を取り留めたものの顔がわからないほどの火傷を負い、記憶喪失になるんです。もう一人は亡くなってしまう。実は二人のうち一人は莫大な財産の相続人なのだけれど、では、生き残ったのはどちらなのか。

シンデレラの罠

語り手が加害者なのか被害者なのかがわからなかったりと、深読みしてしまう作品。人は誰だって、加害者にも被害者にもなりうる存在なのだということを考えました。

映画も大ヒットした『ミザリー』は、熱心な作家のファンがあるとき反転する恐ろしさを描いているし、悪魔の子供を産んでしまう『ローズマリーの赤ちゃん』は、正気と狂気のはざまで揺れる心理描写に引き込まれてしまいます。

ミザリー

人間とは本来、正気なのか、それとも狂気なのかどちらなんだろう、と思うけれど結局、二つの側面を持ち合わせているのが、人間なんでしょうね。

近頃はAIが小説を書くようになり、先日はテレビをつけたらバーチャルアイドルの初音ミクちゃんに大勢のファンが熱狂していてびっくりしました。そういった趨勢は変えられないのでしょうけれど、機械に取って代わられないものはある。例えばロボットには野心がありません。でも人間を突き動かしているのは野心、すなわち欲望です。