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エンタメ 週刊現代

桜庭一樹さんが明かす「作品テーマの選び方」

意外な展開は、こうして生まれる

ものの先入観を覆す作品を数々に生み出してきた桜庭一樹さん。新作の『じごくゆきっ』でも強烈な登場人物が躍動する、7つの短編を収録。精力的に書き続ける人気作家の創作に迫った。

編集担当者の死、そして…

私は担当編集者のカラーによって書く内容が変わるんです。たとえば、担当者が女子校出身だったから女子校が舞台の『青年のための読書クラブ』を書き、担当者が北海道の紋別出身だったので『私の男』の主人公たちが紋別に暮らしていたことにしました。

「小説すばる」には、元担当者で当時の編集長と相談して脳と視覚に関する短篇を書いていたのですが、3篇書いたところでその担当者が亡くなってしまったんです。そうしたら、その後そのテーマの短篇が書けなくなってしまって……。

それで単行本にまとめる際に、まだ短篇集には収めていなかった、昔書いたものを4篇加えました。

―「小説すばる」の短篇に脳と視覚というテーマを選ばれたのは。

脳神経科医オリヴァー・サックスの医学エッセイ『妻を帽子とまちがえた男』と『火星の人類学者』がネタの宝庫なんです。その二冊の中から、「ビザール」は記憶が何度も再生され続ける症例、「ロボトミー」は記憶が一定の時間しかもたなくなる症例、「ゴッドレス」は記憶が何度も再生され続けてしまう症例をヒントにしました。

 

―症例が出発点だとは気づかないほど、どの話もまったく違う地点から話が始まりますね。たとえば「ビザール」はある女性が個性的な趣味を認めてくれる年上の男性と、好みの合わなそうな無難な青年との間で悩む。彼女の本音が意外でした。

特別な人間に見られたくて、本当はそこまで興味がないのに、あえて個性的な趣味を持とうとする人はいるし、その逆もいますよね。私自身も、変わった趣味を持った人に憧れますが、同時に「自分はすぐ変わったことをしてしまうから普通にしなくちゃ」という思いも持っています(笑)。そうしたことも書いてみようと思いました。

―「ロボトミー」は、結婚したものの、妻のお母さんが娘にべったりで……という話。まさか記憶が続かなくなるという展開になるとは。

どんな設定だったら一番怖いかなと考えました。というのも、妻がアルツハイマーになってしまう韓国映画『私の頭の中の消しゴム』を観た時、設定の巧さに感心したんです。これは、夫は本当に辛いだろうなという展開になっていたんですよね。それで、自分も一番怖い場合を考えました。

―怖かったです(笑)。表題作「じごくゆきっ」は女性教師と女子高生が駆け落ちし、鳥取砂丘へと向かう。鳥取は桜庭さんの故郷ですね。

10年ほど前、冬に大失恋をした友だちが、一人で鳥取砂丘を眺めようとして行ったら雪が降っていて、砂丘ではなく単なる雪野原を見てきた、と話していたんです(笑)。それで、冬の鳥取砂丘を目指す話にしました。

この話は生徒より先生が頼りないですが、それはあずまきよひこさんの漫画『あずまんが大王』の影響ですね。

先入観をひっくり返したい

―'05年と翌年に書かれた「暴君」と「脂肪遊戯」は、たっぷり脂肪をまとった美しい少女、田中紗沙羅というカリスマ的存在が強烈な印象を残します。これは初期の代表作『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と同じ世界の話だそうですが。

『砂糖~』では主人公が、慕っている兄からピンクの霧が離れていくのを見る場面がありますが、この「暴君」にもピンクの霧が出てきます。抑圧された状態でカリスマ的な求心力を持っていた人も、ピンクの霧が出ていくと普通の人に戻る、というイメージです。

―ピンクの霧が体内に入るとその人が求心力を発揮するわけですね。

「A」という短篇にも同じイメージがありました。これはSF媒体から依頼をいただいて書いたものです。