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「武器輸出大国」を目指す安倍政権の野望と現実

狙いは「世界の列強入り」…?
古賀 茂明 プロフィール

古賀: ただ僕がちょっと心配しているのが、大学というのは普通の会社より定年が長いですよね。国立で65歳、私立で70歳。そういう思想をしっかり持った人たちが、今は教授などの偉いポジションにいます。日本の大学というのはそう簡単に若い人が教授になれませんから。

年配の教授が言っていれば、若い人が突出して声を上げにくいところはあるかもしれない。忖度もあるでしょう(笑)。あと10年くらい経つと、かなり世代交代が進む可能性がありますから、今のうちに上から押さえつけるのではなくて、若い研究者たちとよく議論し、こういう考え方について理解してもらうことがすごく大事だと思います。

望月: 筑波大が2年前に学生にアンケートをとったら、理工系では、軍事研究容認派が反対派を上回ってしまったそうです。でも永田恭介学長はこの間、会見で「軍事研究しない方向で方針を策定します」と表明しました。

そこで「2年前のアンケートは逆でしたがどうしますか」という質問が出ました。学長は、「学生とは一から議論して、僕たちの考えを理解してもらえるように務めたい」と話しています。今どきの状況を象徴するように感じました。

 

食い止めるには、民主主義しかない

望月: 今の国家観に基づくと、先ほどの川崎重工じゃないですが、「武器ビジネスは、やらざるを得ない」というふうになっていくのではないでしょうか。一回車輪が回り始めたら、そこに根付いている企業や家族は、大きな声を出して「武器輸出反対」とは言えなくなってしまいます。そのことを強く危惧しています。

古賀: そういう心配はあります。ただ僕は、そもそも武器ビジネスは経済的に成り立たないと思います。安倍さんの理想を実現するためには相当日本の経済が強くなって成長して、その果実がどんどん増えて、そのうちのかなりの部分を軍事費に費やす、というふうにならないと無理でしょう。

軍備を拡大して、若い人をどんどん軍隊に入れ、技術者、研究者も軍事に振り向けた結果どうなるかといえば、それ以外のところに必ずしわ寄せがいくでしょう。全体のパイは拡大しないわけですから。

そんなことは国民から見ると「えー!それはおかしい」となりますよ。軍事費のために年金削る、医療費削る、子育て、介護はどうするの、と。それを国債とか消費税とかいろいろなことで補おうとすると思うんですけど、どこかで破たんします。

そのときに大事なのは、日本の民主主義が機能しているかどうかです。

たとえば北朝鮮、あんなに貧しい国なのにあれだけの軍事開発を行っている。中国もそうです。まだまだ日本より貧しいし、貧富の差は拡大している。それなのに軍事開発を進める。それはなぜかといえば、民主主義がないからですよ。国民が文句を言っても押さえつけられる、国民の権利がないがしろにされているからです。そういう体制が、果てしない軍拡競争に勝つためには必要なのです。

今、日本はその瀬戸際にいます。日本の民主主義が失われるのかどうか、の瀬戸際です。その一つのカギが僕はマスコミだと思っています。この武器輸出の問題も、マスコミがどれだけ報じてくれるのか。

武器の問題だけではなくて、安倍さんたちのやっていることを全体として捉えながら、本当にこういう方向に行っていいんですか、ということを大手メディアがきちんと伝えないと、国民がわからないまま、安倍さんを支持するということになります。「安倍さんがんばってください、私たちを守ってください」、とみんな塚本幼稚園になってしまいます。

望月: 先日ある先生から『日本国憲法 9条に込められた魂』 (鉄筆文庫) という本を薦められました。終戦直後に東条英機に替わって内閣総理大臣に就任した幣原喜重郎さんが、憲法九条について話したことをまとめたものです。

ここから4行だけ紹介させてください。

《 非武装宣言ということは、従来の観念からすれば全く狂気の沙汰である。だが今では正気の沙汰とは何かということである。武装宣言が正気の沙汰か。それこそ狂気の沙汰だという結論は、考えに考え抜いた結果もう出ている。

要するに世界は今一人の狂人を必要としているということである。何人かが自ら買って出て狂人とならない限り、世界は軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことができないのである。これは素晴らしい狂人である。世界史の扉を開く狂人である。その歴史的使命を日本が果たすのだ。》

戦争というものを終えた結実が九条だったというのです。GHQからの押しつけなどではなく、彼から非武装宣言をマッカーサーに提示した、ということの動機も含めて語られています。

ここに見る精神性の高さというか、倫理観、道徳というのでしょうか。こういうものをこの人が九条に込めてくれたんだな、と思うんですよね。

急激に変わりつつある日本の武器輸出の動向ですが、これからも見つめ続け、つぶさに発信していきたいと思います。