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80歳すぎてガン手術「する」「しない」で日本中の家族が大モメ!

体力の衰え、高額な治療費…問題山積み

ガンなどの大病を患い、ただでさえ心身にダメージを受けているときに、降りかかるさらなるトラブル。家族とはいえそれぞれ事情を抱えており、一枚岩で病気に立ち向かうのは、かくも難しいのだ。

介護から逃げたくて

「お袋は親父の介護から逃れたいがために、高齢にもかかわらず手術をさせたんじゃないか。もしかしたら死んでほしかったんじゃないかと、今でも考えてしまうんです」

こう語るのは、がん手術で父(82歳)を亡くした息子の上林啓太さん(62歳・仮名)。啓太さんの父親にがんが見つかったのは去年のこと。大腸がんだった。

啓太さんが続ける。

「医者からは手術をしなければ後々、腸閉塞を起こし苦しむ可能性があると説明されました。その上で手術をするか、しないかは、ご家族で話し合って判断してくださいと。

私は82歳という年齢を考え、母(80歳)に『親父の体力が持つか分からないから、手術はやめたほうがいい』と伝えたんです。ところが母は『手術をさせたい。お父さんを元気にしてあげたい。だから(手術を)了承して』と言って聞きませんでした。

父は多少、認知症も入っていましたが、コミュニケーションは普通に取れていました。でも手術に関して父は黙ったままで、最終的には母に促されるかたちで手術を受けることを決断しました」

だが、上林さんが危惧した通り、父親は手術中に容態が急変し、そのまま集中治療室を出ることなくこの世を去ったという。残された啓太さんと母は、父の死について口論になった。

「だからあれほど手術はやめておけと言ったのに、本当は親父に死んでほしいと思っていたんだろう」

「なんてことを言うの。そんなわけないでしょ。お父さんの介護を私一人に任せきりにしてきたくせに、よくそんなことが言えたわね」

啓太さんが就職で実家を離れて以降、両親は田舎の実家で、ずっと二人で暮らしてきたという。

 

啓太さんが続ける。

「父は50代の頃に脳梗塞を発症し、右半身に麻痺が残ってしまったんです。そんな父を母親はずっと介護してきたのですが、ここ数年は正直、疲れ切っていたのが端から見ても分かりました。

母もよく『もう(お父さんの世話は)疲れた』と漏らしていた。そんな状態でがんを患い、さらに介護が大変になることは目に見えていました。

だから母としては手術の可能性に賭けたかったのでしょう。

それと同時に手術になれば3ヵ月は入院することになるので、その間、介護をしなくてもよくなるとふと思ったのかもしれません。最終的に父が何も言わず手術を受け入れたのも、長い間、母に苦労をかけているという負い目があったからではないでしょうか」

息子である自分が介護をすることで父の手術を止める方法もあったが、住んでいる場所も離れているため、それは物理的に不可能だったという。

「父を亡くしたことで、母は悲しみに暮れていますが、正直どこかホッとしている部分もあると思います。確かに、80歳という母の年齢を考えても、がんを患った父の世話がこれからも続くのは辛いという気持ちは分からなくはない。

でももし手術しなければ、親父はあと1~2年は生きられた可能性が高い。本当にこれでよかったのか――最期に家族に会うこともできずに逝ってしまった父のことを思うと、今でも心の中で手術をすすめた母を責めてしまう自分がいるんです」

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80すぎてがんが見つかった時、手術するべきか否か、治療方針を巡って、患者家族で意見が分かれる。こんな問題が今、日本中で起こっている。これは決して他人事ではなく、どの家庭にでも起こりうる問題である。

国立がん研究センターの調べ('12年)によると75歳以上のがん患者数は、35.9万人(全がん罹患者数の41.5%)、85歳以上は10.8万人(同12.5%)というデータがある。

高齢者のがん罹患数は年々増加しているが、その理由は、平均寿命が延びたことと、医療の進歩によりがんの発見確率が上がったためである。

がんの場合、若くて体力があるうちは手術して切ればいいかもしれない。しかし、高齢者になるとそう簡単にはいかない。体力が持たずに術中に亡くなることもあれば、仮に手術が成功しても、身体に大きな負担がかかるため、予後が悪くなり、結果的に手術をしたことで死期を早めてしまう可能性もある。