イラスト/金井裕也 写真/iStock

ヒトの顔には表情があるのに、魚にはなぜまったく表情がないのか?

解剖学者が真剣に考えた!

魚には表情がない

最近、水族館が人気を集めているらしい。

筆者も水族館が大好きで、大きな水槽の中を悠然と泳ぎ回る魚たちは、何時間見ていても飽きることがない。

特に、沖縄の美ら海水族館は圧巻で、巨大水槽の前でコーヒー1杯を手にしながらほぼ半日は座り込んでいる。

席を立つのも決して見飽きたからではなく、席待ちの他のお客にも空けてやらなければ、という優しい気持ちからである。

 

アジが大きな群れを作って左から右へ行くと思ったら、急にきびすを返して流れるように前方へ顔を向ける。

その集団に真っ正面から顔を合わせると、どの一匹もが全く同じ顔をしていることが非現実的に思われる。

まぶたを閉じることもなく目を大きく見開いたままなので、ものすごく真剣な顔でこちらに向かってくる。

個々の違いはといえば、せいぜい体つきの大小に多少の差があるかといったあたりにすぎない。

ふと我にかえって、水槽をのぞき込む人々の方に目をやると、どの顔もそれぞれに違っているし、大声を上げて感嘆する顔となると時々刻々に表情が異なってくる。

かなり分厚いとはいえ、水槽のガラス1枚をはさんで、非日常世界を体験できることが水族館見物の醍醐味なのだろう。

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豊かな表情を生みだすしくみ

魚と対比するまでもなく、我々、ヒトの顔には非常に豊かな表情があり、喜怒哀楽、心の動きのひとつひとつが微妙な顔の表情となって現れてくる。

だから、音声を消してテレビドラマを見ていても大筋は誤らずに読み取ることができるほどだ。

どうして我々の顔はこんなにも豊かな表情を生み出すことができるのだろうか?

表情を生み出す元になるのは、顔にちりばめられた表情筋という一群の骨格筋の存在による。

表情筋の概要は筆者の近著「新しい人体の教科書 上」(講談社ブルーバックス)の表紙に図案化してあるので、ご覧いただくのが良いかと思う。

表情筋とは別に、顔や頸部には口の開閉、もっと正確に言うなら下顎を上げてものを噛んだり飲み込んだりする運動や、逆に下顎を下に引いて口を大きく開けてほおばる運動を主機能とする筋群もあって、これらも表情をオーバーに表象する上で大きな効果を生み出している。

いかめしい顔をする時には常に閉口しているし、「エッ、ホントー」という顔つきや「ワッハッハ」と大笑いの時には口が大きく開いているはずだ。