予防接種としての叱責

「骨は折れると強くなる」というのは、昭和にはじまった迷信にすぎないらしいが、心も「折れる」度にむしろどんどん弱くなる。だからたとえば、「心」を細長い骨のようにでなく、力こぶのような引き締まった筋肉としてイメージしてみよう。

筋肉は適度な負荷をかけた方が強くなる。逆になんのストレスもなければどんどん細く弱くなってしまうものだ。

もちろんかけすぎはよくない。あまりに重すぎる負担だったり、インターバルを空けずにずっと負荷をかけつづけたりすれば再起不能なダメージを受けることもある。準備運動もなくいきなり激しい負荷をかけるのもよくない。

電通に入ってわずか1年足らずで自ら命を絶った高橋まつりさんはまさしくこのような状況ではなかったか。「休日返上で作った資料をボロクソに言われた もう体も心もズタズタだ」とSNS上に書き込んでいた。

「ボロクソに」という言い方がどのようなものであったのかはわからないが、仕事の上でダメ出しを食らうこと自体はありうる、というより誰しも避け得ないことだろう。

もちろん高橋さんの場合はこれが1回こっきりでなく、仕事量の問題や、仕事に直接関係のない「女子力」のことまで上司にあげつらわれたという問題があった。こういうときはすぐにしかるべき部署に相談すべきだ。少しずつだが着実に、会社の中でもそういうサポートは進んできている。

だから、ここではどうしても避けられないダメ出しや叱責に関して、それにどう対処するかを考えよう。

避けられないなら、受け止めるしかない。これが真理だ。逃げてはいけない。完璧な人間なんているはずがなく、誰でも子どものときは親から、学生のときは先生から、会社に入れば上司から不備を指摘されるに決まっている。お父さんやお母さんは、今は優しさの権化みたいに見えるおじいちゃんやおばあちゃんから叱られ、先生たちはその先生から叱られ、上司はその上司から叱られていた。

そう思えば、彼らからの叱責も少しは耐えやすくなるだろうか。しかし、ここでコツというのはこのことではない。2つめのコツは、「叱られるなら早いうちに」ということだ。

この「早さ」とは、失敗に気づいたら即刻あやまりにいく、というばかりでなく、人生のできるだけ早い時期に、という意味でもある。

予防接種と同じで、子どものときに注射でちょっと痛い思いをしておけば免疫がつくが、それを嫌がって大人になってその病気に罹ると重症化してしまう。同様に、いい子いい子で、全く大人から怒られたことのない人が、会社に入っていきなり叱られるとパニックに陥る。だから、できれば学生の間に、部活でもバイトでも、必ずしも得意でない分野に飛び込んで、叱られる経験を積んでおくのはよいと思う。「心」の免疫が強くなる。