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防衛・安全保障 企業・経営 週刊現代

孫子の『兵法』に学ぶ「勝者の情報収集術」

戦争もビジネスもこれが決めた

旧日本軍の敗因は明らか

孫武(紀元前500年頃に活動)が作者と伝えられる兵法書『孫子』(全13篇)は、今日でも軍事理論の古典として読み継がれている。それだけでなく企業経営者の間でも、マネージメントの参考書として評判がいい。確かに本書の内容には、企業や役所の仕事に役立つ内容が多く含まれている。

孫子が優れているのは、戦闘の技法に通暁しているのみならず、戦争と経済の関係をよく理解しているところにある。

〈孫子はいう。およそ戦争の原則としては、戦車千台、輜重車(しちょうしゃ)千台、武具をつけた兵士十万で、千里の外に食糧を運搬するというばあいには、内外の経費、外交上の費用、にかわやうるしなどの〔武具の〕材料、戦車や甲冑の供給などで、一日に千金をも費してはじめて十万の軍隊を動かせるものである。

〔従って、〕そうした戦いをして長びくということでは、軍を疲弊させて鋭気をくじくことにもなる。〔それで〕敵の城に攻めかけることになれば戦力も尽きて無くなり、〔だからといって〕長いあいだ軍隊を露営させておけば国家の経済が窮乏する〉

孫子はここでロジスティクス(輜重)の重要性を説いている。これに対して、旧大日本帝国陸軍はロジスティクスを軽視していた。

占領地まで食料を運搬することを考えずに、軍票(軍隊が発行する札)によって物資を強制的に買い付けた。占領地の住民からすれば、略奪のようなものだ。ロジスティクスを軽視したが故に、旧陸軍は占領地の反感を過剰に買うことになってしまった。

孫子は、インテリジェンス(諜報)を重視する。特にヒュミント(人間を通じて入手する情報)について詳細な説明をしている。

 

〈孫子はいう。およそ十万の軍隊を起こして千里の外に出征することになれば、民衆の経費や公家の出費も一日に千金をも費すことになり、国の内外ともに大騒ぎで農事にもはげめないものが七十万家もできることになる。そして数年間も対峙したうえで一日の決戦を争うのである。〔戦争とはこのように重大なことである。〕

それにもかかわらず、爵位や俸禄や百金を与えることを惜しんで、敵情を知ろうとしないのは、不仁―民衆を愛しあわれまないこと―の甚だしいものである。〔それでは〕人民を率いる将軍とはいえず、君主の補佐ともいえず、勝利の主ともいえない。

だから、聡明な君主やすぐれた将軍が行動を起こして敵に勝ち、人なみはずれた成功を収めることができるのは、あらかじめ敵情を知ることによってである。あらかじめ知ることは、鬼神のおかげで―祈ったり占ったりする神秘的な方法で―できるのではなく、過去のでき事によって類推できるのでもなく、自然界の規律によってためしはかれるのでもない。必ず人―特別な間諜―に頼ってこそ敵の情況が知れるのである〉