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社会保障・雇用・労働 哲学

電通過労自殺・高橋まつりさんの母がいま思う、我が娘の死の意味

『隷属なき道』を読んで

「20世紀を代表する経済学者ケインズは、1930年に『2030年には人々の労働時間は週15時間になる』と予測した。にもかかわらず、そんな未来がやってきそうにないのはなぜか?」

そんな問いかけから始まる書籍『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』が、世界的に大きな反響を呼んでいる。著者はオランダの29歳、若き知性ルトガー・ブレグマン。

ルトガー・ブレグマン/1988年生まれ、オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。ユトレヒト大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で歴史学を専攻。広告収入に一切頼らない先駆的なジャーナリストプラットフォーム「デ・コレスポンデント(De Correspondent)」の創立メンバー(写真:Maartje ter Horst)

ブレグマンはこの本のなかで、様々なデータをもとに非常に大胆な提言をしている。それは結論だけを聞けば「夢物語」と思えるようなものだ(本書のおどろきの内容はこちらを参照:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51735)。

電通で過労の末、自殺に追い込まれた高橋まつりさん(享年24)の母・高橋幸美さんは本書をどう読んだのか? 特別にレビューを綴ってもらった。

なんのための労働か

この本の英語版のタイトルは「Utopia For Realists」と言うそうです。「現実主義者にとっての理想郷」という意味ですが、現代は中世から見ればあらゆる意味で理想郷なのだという記述から始まります。

中世の人々は激しい貧困と不潔の中で、ミルクとはちみつでできた国「コケーニュ」を思い描いていたそうです。

「たしかに、1820年には世界の人口の94%が日々のパンにも飢える生活を送っていたが、今日ではそうした貧困下で暮らす人々は世界の総人口の10%をきっている」と著者は綴ります。

やがて産業革命が広がっていき、人々の生活は劇的に豊かになっていきました。そして、テクノロジーの恩恵を受けて労働時間が徐々に短縮していく流れのなかで、経済学者のケインズは1930年に「2030年までには週15時間労働の時代が来る」と宣言したのだそうです。

 

ところが、下降線をたどっていた人々の労働時間は1980年代を境に逆に上昇に転じてしまっている。

そしてその多くは、意味のない労働に自らの命を費やしていると著者ルトガー・ブレグマンは書いています。

人々は物質的には中世の人が思い描いた「コケーニュ」の理想郷の世界に暮らしながら、働きづめに働き、精神的に自らを追い込んでいるのではないか、と。

まつりは、電通に入社した直後の新人研修では、日々あったことを生き生きと報告してくれていました。

ラジオCM制作の課題でも彼女の考えた企画が採用されて、実際にオンエアされたんだよとか、若者のクルマ離れや新聞離れをくい止めるためのキャンペーンでも、彼女のアイデアで班がぶっちぎりの優勝をしたんだよ、と楽しそうに話してくれました。

人前で話すことやアイデアを出すことが得意だったので、そんな仕事を続けていきたいという夢を叶える途上でした。

大学時代に中国に留学していたまつりさんと万里の長城へ出かけたときの一枚