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辰巳ヨシヒロの漫画はなぜ海外で高く評価されるのか?

その魅力と主題の普遍性について
作品が数ヵ国語に翻訳され、シンガポールの監督が映画化するなど、海外で高く評価されている漫画家・辰巳ヨシヒロ。日本のなかの出来事として日本語で表現されたものが、なぜ英語に翻訳しても伝わっていくのか? 片岡義男さんがその魅力の核にある「普遍性」について考えるーー。
(辰巳ヨシヒロの自伝的作品の面白さについて書いた前回はこちら
→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51864

50年前に彼の作品に出会った

辰巳ヨシヒロの短編コミックスを僕がたくさん読んだのは、1968年から1972年にかけての、5年ほどの期間だった。いろんなコミックス雑誌を買い、熱心に読んでいた友人が、読み終えたのを僕に提供してくれていたからだ。

ひと月も彼に会わずにいると、彼はひとかかえのコミックス雑誌を紙袋に下げて、待ち合わせの喫茶店にあらわれるのだった。その彼が熱意をこめて勧めてくれていたのが、辰巳ヨシヒロの短編だった。

『大発見 辰巳ヨシヒロ』(青林工藝社/2002年)という作品集に、辰巳自身が書いたものを編集部で調べなおして万全を期したという年譜が掲載されている。

当時の僕がどんな雑誌で辰巳の短編を読んでいたのか、この年譜を見るとよくわかる。1968年から1972年まで、辰巳の作品が掲載された雑誌を列挙してみよう。

劇画ヤング。劇画マガジン。ガロ。サンデー毎日増刊。コミック・マガジン別冊。現代コミック。別冊少年マガジン。ビッグ・コミック。週刊少年マガジン。週刊漫画タイムス。別冊土曜漫画。COM。高2コース。トップ・パンチ。週刊プレイボーイ。増刊土曜漫画。週刊漫画アクション。ビッグ・コミック増刊。別冊漫画ストーリー。土曜漫画。コミック・ミステリー。SMトップ。ヤング・コミック。劇画セレクト。増刊ヤング・コミック。漫画ゴラク。コミック・サンデー。

 

日本で刊行された辰巳ヨシヒロの短編集は5冊、手もとにある。カナダの出版社から刊行された英語版を2冊、僕は読んだ。The Push Man and other storiesGood-Bye の2冊。辰巳ヨシヒロを英語で読む日が来ようとは、思ってもみなかったことだ。

カナダの Drawn & Quarterly という出版社から最初に刊行された辰巳ヨシヒロの短編集は、2005年の The Push Man and other stories だった。アメリカのコミックス作家エイドリアン・トミネの尽力と辰巳ヨシヒロの熱意とによって生まれた英語版で、収録された作品は辰巳自身の希望により、1969年に発表された作品群だという。