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不正・事件・犯罪 週刊現代 日本

判例検索ソフトの「コピペ裁判官」が増殖中…その深刻な背景

若手裁判官の仕事観を変えたのは何か

学校のレポートや会社の書類を学生や若手社員が「コピペ(コピーして貼り付ける)する」という問題があるが、なんと裁判官の世界にまで、しかも判決文という神聖な領域に、コピペが侵食していた。

変質していく裁判官

裁判官という「厳正で崇高な職務」に誇りと使命感を抱き、時に寝食を忘れ、裁判に打ち込んできたベテラン裁判官たちは、後輩の若手裁判官の意識の変化に、少なからず戸惑いを覚えている。

2002年5月、司法研修所で実施されたベテラン裁判官と元裁判官による研究会でも、この変化について議論が及んだ。

匿名処置された出席者のひとりは、若手裁判官が「裁判を事務程度に考え易く、裁判官としての背筋を伸ばした姿勢は保てなくなってゆくのではないか」との危惧を述べたあと、こう続けている。

「例えば、判決起案が差し迫っていても、それを差し置いて、夏休みには家族で海外旅行へ行く、冬休みにはどこそこへ行くといったライフスタイルを崩さない、少々の忠告というか苦言を呈しても崩さない、こういう裁判官がだんだん目につくようになっている」(研究会報告『裁判官の在り方を考える』)

判決起案とは、地裁を例に取れば、裁判長以下、中堅裁判官の右陪席と若手裁判官の左陪席の3人の裁判官がつくる合議体において、若手裁判官が、最初に起案する判決原案のことである。この原案に右陪席と、裁判長が手を入れたのち判決文は完成する。

夏期休暇に限らず、日常の業務でも仕事一辺倒ではなく、家庭を大切にし、子育てにも積極的に参加する。いわゆるワーク・ライフ・バランスを重視する生活スタイルは、若手だけでなく、中堅裁判官にも及んでいる。

先の研究会では、別の参加者が、こう指摘している。

「最近の若い人たちは、家に仕事は持ち込まない。そこで、9時、10時まで役所に残って仕事をする。それから、土曜日、日曜日のいずれか1日役所に出てきて仕事する。これは左陪席の仕事のパターンです。

右陪席は、家に帰ったら、子供の面倒を見てお風呂に入れなきゃ駄目だから早く家に帰るけれども、家ではあまり仕事ができないという方もいます」

ベテラン裁判官たちから見て、いまひとつ、頼りにならないと感じる彼らにしても、その職責の重大さを理解していないわけではない。

彼らの多くが、全身全霊をかけ、裁判に向かう気持ちになれないのは、裁判所自身の問題に起因している。一皮むけば、さまざまな矛盾と欺瞞を隠し持っている組織体質が、とりわけ若手や中堅裁判官の気概を削いでいたのである。

ある中堅裁判官は、弁明めいた口調でこう語った。

「裁判長の中には、口では裁判は大事と言いながら、本音では必ずしもそう思ってない人がいる。しかも、判決内容より、要領よく事件処理することに一生懸命で、そういう人のほうが、恵まれた道を歩いている。

こういう現実を目の当たりにしていると、来た仕事、来た仕事に全力投球する気にはなれないものです」

また、別の若手裁判官は、「あまりに忙しく、よほど工夫しなければ判決起案に時間を割く余裕がない」として、こう零した。

「裁判所では、まずは、合議体で主任を務めさせられ、法廷期日のたびに、合議メモを作成し、裁判長と右陪席に、これまでの審理経過や今後の見通し、現時点での暫定的心証などを説明しなければならない。過不足のないメモを作る準備に、自分だけが利用するメモ作り以上に時間がかかる」

同若手裁判官の話が続く。

「そのうえ、捜査機関からの令状請求は、24時間いつでも来ますから、当番であれば深夜でも叩き起こされる。

加えて、裁判長や所長からは種々雑多な仕事を言いつけられ、若手裁判官の集まりである判事補会の勉強会にもでなければならない。まさに息つく暇のない毎日です」

 

だから、休める時には、息を抜かなければやっていけない。なるべく仕事のことを忘れ、自由に過ごすように努め、週末には友人と繁華街などに繰り出し、朝まで飲み明かすこともあるという。

若手裁判官の価値観、仕事観の変化は、単に、時代の影響だけでない。根はもっと深いところにあることは、最高裁も分かっていながら、無為無策を続けてきたのである。

その結果として、実務を預かるベテラン裁判官たちの嘆きが生まれることになった。