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医療・健康・食

シリコンバレーで自閉症が急増中!? いったい何が起きているのか 

覆される「固定観念」

今やアメリカで470万人(68人に1人)、日本で120万人(100人に1人)と推定される自閉症スペクトラム(ASD)。私たちは本当に自閉症について知っているのだろうか? 最新の状況を取材し、「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラーになった『自閉症の世界(原題 Neuro Tribes)』の邦訳がついに刊行された。その一部を特別に紹介しよう。(翻訳:正高信男・入口真夕子)

奇妙な偶然の一致

私が自閉症について知ったのは、1988年に映画『レインマン』を観たのがきっかけだった。

ダスティン・ホフマンが演じるレイモンド・バビットは、確かに記憶に残るキャラクターだったが、現実にそのような人に出会う機会は稀であろうと、そのときは思っただけだった。

数ヵ月たって別件で、シリコンバレーを取材することがあった。何人かのコンピュータ技術者に自宅でのインタビューを申し込むと、家族に自閉症の子どもがいるがそれでもいいかという返答が、立て続けにかえってきた。

奇妙な偶然の一致だった。翌日、カフェでこの不思議な一致について友達に話していた。すると突然、隣の席にいた髪を短く刈った若い女性が話しかけてきた。

「私は特別支援教育の教師ですが、何が起こっているかご存知ですか? シリコンバレーでは自閉症が流行しているのです。何か恐ろしいことが私たちの子どもたちに起こっているのです」

私は自閉症についてのあらゆる記事を集め、読み漁り始めた。すると自閉症診断件数の増加はシリコンバレーに限られたことではないことが分かった。世界中で起きているようなのだ。

自閉症研究の歴史は、1943年に小児精神科医であるレオ・カナーが論文を発表したときにさかのぼる。

1年後、まったく軌を一にして、ウィーンの臨床医、ハンス・アスペルガーが周囲の人間、自分の両親とでさえ奇妙なほどに触れ合おうとしない4人の若い患者についての論文を発表した。ボルチモアのカナーの若い患者とは違い、この子どもたちはむずかしい語彙を連ねた文章を話す一方、自然科学や数学において早熟した能力を示した。

それから数十年の間、自閉症の診断件数は推定するに、1万人に4、5人にすぎず、しかも変動していないとされていた。

ところが1980年代にはいると雪だるま式に増えだし、子どもたちが、原因不明の流行感染症にかかっている可能性すら指摘され始める。

 

取材を始めてみると、シリコンバレーに代表されるようなハイテク地域は、優秀だけれども社会的に不器用なプログラマーとエンジニアにとっては天国だというのが、ポップカルチャーの業界では定説となっていることが、すぐに明らかになった。

インテル、アドビ、シリコン・グラフィクスのようなIT発祥地の多くのハードコア・コーダー(バリバリのプログラマー)は朝早く出社しては、夜遅くに退社し、その間はアスペの世界に埋没しているというのが、その業界ではお馴染みのジョークとなっていた。

カリフォルニア州モラガにある自閉症の子どもたちのための高校である、オリオン・アカデミーの校長キャスリン・スチュワートは、アスペルガー症候群をエンジニアの障害とさえ呼んでいた。

「エンジニアなんて多かれ少なかれみんな自閉症的だと思うよ」