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ダイヤモンド社がベストセラーを生み出し続けるシンプルな法則

社長が明かした

本が売れない時代に、着実にベストセラーを出し続けている出版社がある。ダイヤモンド社だ。

1913(大正2)年に創業者・石山賢吉が「本誌の主義は算盤の二字を以て尽きます」と書いた「経済雑誌ダイヤモンド」の発行からスタートした同社は、ビジネス書を中心に数々のベストセラーを発行してきたが、近年はジャンルの幅を広げている。

累計部数160万部を突破した『嫌われる勇気』とその続編『幸せになる勇気』(ともに岸見一郎・古賀史健著)は哲学、シリーズ(3作)累計112万部突破の『伝え方が9割』(佐々木圭一著)はコミュニケーション、『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(久賀谷亮著)は健康、『毎朝、服に迷わない』(山本あき子著)はファッションといった具合だ。しかも、それぞれが非常にエッジの立ったコンテンツを持っている。

なぜこんなにも多様なジャンルでヒットが続いているのか。「上阪徹のブックライター塾」(*)第4期の講座で、同社社長の石田哲哉氏が上阪徹氏によるインタビューに臨んだ。社長自らが語る、ヒットを生み出し続けるダイヤモンド社の秘密とは?

ベストセラーは店頭でつくる!

上阪 現在ダイヤモンド社さんからは、いろいろな切り口でベストセラーが出ていますが、これはこの10年くらいのことですよね。

石田 はい、『もしドラ』からですね(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』岩崎夏海著。ビジネスの要素を多く盛り込んだ青春小説で、ダイヤモンド社初のミリオンセラーとなった。2009年発売。2012年10月時点で電子を合わせて275万部。その後文庫化された)。

上阪 ダイヤモンド社がヒット作を次々出せている理由は何なのでしょうか?

石田 個々の編集者の本づくりへのこだわりが非常に強いということが、当然あります。ただ、ヒットが“連続的に”出ている理由は、編集・書店営業・宣伝プロモーションの相互連携がものすごく強いことです。たとえば、書店営業や宣伝プロモーション部のマネジャーたちは、「ベストセラーは書店店頭でつくります」とはっきり言います。

上阪 「つくります」と。

石田 はい。新刊、既刊を問わず、書店営業部隊は書店さんに対してさまざまな案内・提案を行います。同時に、宣伝プロモーション部は、宣伝広告と併わせて、テレビ・新聞・雑誌などへのパブリシティを仕掛けることで、ベストセラーを生み出していく。仕掛けたときに書店店頭に本がなければ売上は伸びないので、書店営業とプロモーションが連携していることが最も大切なのです。

上阪 なるほど。

石田 ここ2年ほど、営業局が力を入れているのが、書店法人さんごとの勉強会です。書籍の販売戦略に関するデータや宣伝プロモーションの考え方を書店さんと共有することが目的です。

上阪 書店さんにとっては、そういうことをしてもらえたら本当に助かりますね。

 

石田 新刊だけではなく、たとえば『入社1年目の教科書』(岩瀬大輔著)という本は2011年に刊行されましたが、毎年、特に3月、4月に売上を伸ばしており、単月では直近の2017年4月が最も売れた月になりました。店頭と宣伝プロモーションを連動させて、毎年前年を上回る売上にしている。そういう掘り起こし方もします。

上阪 6年前の本が今年も売れているというのは、すごいですね。

石田 『嫌われる勇気』は2013年12月の本ですが、段階を追ったプロモーションによって、今もずっと売れ続けている。営業からみると、強いコンテンツであれば、売り伸ばしの方法はさまざまに考えられると言います。タイミングによって、訴求の仕方を変えて、顧客を広げていくことができるのです。だから営業サイドは編集者に、ひたすら強いコンテンツを作ってくださいと言っています。

営業×編集(VS、ではなく)

上阪 昔はミリオンセラーって、出たらそこで終わっていましたよね。

石田 ベストセラーに関して言うと、以前は、どちらかというと初版を多く刷って、広くまいて、という形が多かったのだと思います。現在、当社の本は、初版でものすごく多く刷っているわけではありません。

上阪 『嫌われる勇気』も8000部からですね。

石田 そういうところから営業が着実に店頭で売っていくのですが、初速をみながら仕掛けを工夫し、2刷目の重版部数が大きくなることもあります。

上阪 本が売れないと、営業と編集がお互いに責任のなすりつけ合いをする会社もある、ということも耳にします。ですが、私がダイヤモンド社の編集者と関わらせていただいて思うのは、そういう嫌な部分がないということです。

石田 この10年くらいでしょうか、営業と編集の関係が変わってきました。

上阪 それはどんなふうに?

石田 まず営業部門が、書店さんに対して、本を売るためのさまざまな提案をすることが増えた。そういう力がついてきた。もうひとつは、編集に対して、より売れる本にするためにいろいろな提案をするようになった。

タイトル、装丁、帯のコピーなど、書店店頭の情報に基づいて、提案してくれる。今では編集者が、企画の段階で営業に相談したり、ゲラ(試し刷り)の段階で営業に「読んでください」と言うようになりました。編集サイドも営業の意見をとても重要な情報として聞いています。

上阪 それは編集者が、営業さんが現場の情報を持っていることに気づいたからですか

石田 そうですね。営業と議論したほうが、モノが良くなると実感しているからだと思います。

石田哲哉(いしだ・てつや)
株式会社ダイヤモンド社代表取締役社長。1961年東京生まれ。上智大学文学部英米文学科卒業。1986年ダイヤモンド社入社。ダイヤモンド・ハーバード・ビシネス編集長、週刊ダイヤモンド副編集長、書籍編集局第二編集部編集長、総合企画室室長、取締役雑誌局長などを経て、2016年4月から現職。