不正・事件・犯罪

「共謀罪」が成立したら、「海外での日本人接待」が犯罪になる⁉

準備罪法案から「贈賄罪」が消された理由

4月6日に審議が始まった組織的犯罪処罰法等改正案、いわゆるテロ等準備罪法案が、5月23日の衆議院本会議で自民・公明両党と日本維新の会等の賛成多数で可決された。野党側は、金田勝年法相の不信任決議案を出して対抗したが、意外なくらいあっさり衆議院を通過した。現在、参議院法務委員会での審議が続いている。

今回の法案には、あまり注目されていないが二つの注目すべき重要な点がある。

一つは、政治家や公務員に対して賄賂をあげる「贈賄罪」と、外国の政治家や公務員に対して賄賂をあげる「外国公務員贈賄罪」がともにテロ等準備罪の対象から落ちていることだ。

もう一つは、海外ビジネスを手がける日本企業にとって極めて重要になる改正点となるが、今後、海外で日本の公務員に賄賂を贈ったら贈賄罪に問われることになるという点だ。なぜテロ等準備罪法案から贈賄罪が抜け落ちたのか、そしてなぜ海外での贈賄が犯罪とされるようになるのか、その理由を考察していきたい。

「どの犯罪が対象か」が最大の焦点

国会ではこれまで、「共謀罪」が成立すると戦前の治安維持法下のような監視社会が到来するという危険性を強調する反対野党と、世界の大半の国が締結している国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を我が国も締結し、「テロや組織犯罪に更に備えるべきだ」とする政府与党との間で、激しい論争が繰り広げられてきた。

TOC条約は、マフィアによるドラッグ犯罪のような組織的犯罪を取り締まることを目的として、重大な犯罪を「合意」すること、又は犯罪組織に「参加」することの犯罪化を条約加盟国に要求している。今回の政府案は「テロ等準備罪」という名称を用いているが、本稿では、TOC条約が要求している広い意味での犯罪の共謀(conspiracy)という文脈から、いわゆる「共謀罪法案」や「共謀罪」という言葉を用いることをご承知頂きたい。

さて、国会での争点は4つだ。①テロ対策との関係があるのか②「組織的犯罪集団」があいまいではないか③「準備行為」があいまいではないか、そして④「共謀罪」の対象となる犯罪の範囲はどこまでか、だ。

野党側は、①~④の質問を繰り返すことで、従来からある予備罪等を適用(ないし拡充)すればテロ対策としては充分であり、「共謀罪」が成立すると監視社会が到来するとして国民の不安感に訴えかけるという戦術を取ってきた。

しかし、実は、このうち①~③は政府案に対する批判として、それほどの有効性はないのが実情だ。なぜなら今回の法案は、政府がこれまで三度に渡って廃案となった従来の法案の審議内容を参考にして、あらかじめ批判を想定して立案したものだからだ。

 

これまで使われて来た「共謀罪」のキー概念である「団体」を「組織的犯罪集団」(②)に改め、「共謀罪」の成立要件に「準備行為」を要求した(③)点がそれだ。政府側の手のひらの上で踊っているというと言い過ぎかもしれないが、犯罪の成立範囲を狭めるというベクトルは、実は政府側も野党側も同じであり、そこでの批判は「程度の差」の問題に帰着してしまうのだ。

まして、①の「テロ防止との関係性」は、正直に言って本筋ではない。「東京五輪のテロ対策を強調すれば国民の理解を得られるだろう」という政治判断で加わったものであり、当初の政府原案の条文になかった「テロリズム集団」という文言は、与党による法案審査の局面で付け加わったものだ。ある意味では、政府側もはなから「筋が悪い」と分かっているもので、批判しようとも暖簾に腕押しだ。

本当の争点は④、つまり「共謀罪」の対象となる犯罪の範囲だ。