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巨艦・野村證券も動く!資産運用業界の「大淘汰」時代が始まった

金融庁の本気度がものすごい
橋本 卓典 プロフィール

金融庁に従う野村證券の思惑

それにしても、なぜ野村はいちはやく前向きな方針表明をしたのか。

かつて野村は、主力の野村證券による圧倒的な営業力が収益をけん引してきた。野村に限らず、証券会社の営業担当は顧客に相場を語り、絶好の投資チャンスだとセールストークし、金融商品を販売してきた。それが証券ビジネスの歴史だ。

しかし、主要な収益基盤となってきた顧客層は高齢化し、今後10年、20年先の収益を約束するものではなくなってきた。ここに野村の危機感がある。

野村にとって若手層の開拓は道なかばで、これからの最重要課題だ。今後、若手層が資産形成に目覚めたとしても、低コストの資産運用・資産形成サービスで攻勢をかける楽天証券やSBI証券などのインターネット証券に、大きなシェアを奪われる可能性を否定できない。相場を語る昔ながらの営業では、もはや限界なのだ。

もちろん、野村はすでにこの問題を認識している。2012年8月には早くも、永井浩二グループ最高経営責任者(CEO)のもとで改革に着手している。

当面の課題は、市場の変動に左右されない安定的な収益基盤の整備だ。個人向け営業では、コンサルティング営業を重視し、内部での業績評価なども見直してきた。

取引先企業の従業員向けの「職域販売」(=顧客企業の厚生部などと連携し、職場に出張して販売すること)を深掘りした営業戦略も展開していく。クローズドな職域ビジネスを、ネット証券への強力な対抗策と位置づけている。

5月上旬には、1980年代生まれの30代をターゲットにしたウェブマガジンを公開。80年生まれの俳優・玉木宏さんを起用したCMからも、野村がどこを目指しているのかがうかがえる。

野村には金融当局にたやすく屈しないDNAが流れている。それが野村の「強さ」でもあった。しかし今回は、金融庁が資産運用・資産形成サービスに求める、顧客本位のビジネスモデルへの変革は、野村の方向性とも合致すると判断したように筆者には見える。

 

フィデューシャリー・デューティーに詳しい、HCアセットマネジメントの森本紀行社長は、コラムでこう指摘している。

「伝統的な個人営業の顧客基盤が縮小するなかで、金融庁のいう資産形成という新しい分野へ展開することが必要となってきていて、そのために必須の要件として、原則に積極的にコンプライしなければならないという経営判断なのです。

(中略)金融庁が原則を公表したことを外部からの強制力として利用し、変革への意思を社会に宣言することで、内部の抜本的な意識改革を進めようということではないでしょうか」

大手銀行の危機感が高まっている

フィデューシャリー・デューティーの改革の衝撃は野村にとどまらない。金融業界がこれまで「常識」としていたことはことごとく覆されるかもしれない。

「今後はわれわれの業務のすべてが顧客本位であるのかが問われる」

今年に入って、あるメガバンクのトップが会議で、こう檄を飛ばした。

森信親・金融庁長官の任期が、異例の3年目に突入する公算が大きくなったことだけが理由ではない。長官が交代すれば「金融庁は顧客本位の看板をはずす」と楽観視できる状態ではなくなり、待ったなしの改革が迫っているとの危機感が高まっているのだ。

事実、ある大手銀行は、地方支店の大幅な撤退を内部で検討しているという。

秋以降に本格化する、金融庁によるフィデューシャリー・デューティーのモニタリング(検査)への対応を考えると、「顧客本位に責任を持てないエリアや業務を縮小し、地方銀行などにまかせていくのが自然な考え方」(銀行幹部)というわけだ。

今年4月に『捨てられる銀行2 非産運用』(講談社現代新書)を刊行して以来、毎月分配型投資信託や外貨建て貯蓄性保険商品など、手数料が高く顧客の資産形成につながらない金融商品の妥当性を問う論調が強まった印象がある。

業界関係者と思わしき反論もみられるものの、あるべき姿への問題意識、関心が高まっていることは事実だ。いま目を背ければ、それだけ時間を浪費し、対応が遅れ、後手に回るだけ――。そうした認識が徐々に広がり、もはや後戻りできないところに来ているように感じるのは、筆者だけではあるまい。