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週刊現代

人気コラムニスト・小田嶋隆の血肉となった「究極の10冊」

僕の「ひねくれた」読書遍歴

スジなしのデタラメさが魅力

自己形成に影響を受けた本というと、10代から20代にかけて読んだ本が中心になりますね。

1位はジョーゼフ・ヘラーの『キャッチ=22』。大学に入って間もない頃、サイモン&ガーファンクルのガーファンクルを追っかけていました。この本はガーファンクルが出演した映画の原作だったんです。

過去と現在を行き来する、語るに厄介な小説です。第二次世界大戦末期、イタリアに派遣された米空軍の兵士たちの話ですが、戦場でこんな馬鹿げた死に方をしたやつがいたという話が次々と出てきたりします。

よく覚えているのは、「あの戦争の勝者はイタリアだった」という会話です。イタリアは死者も少なく、戦況が不利になるといち早く降伏。連合国軍がやってくると娼婦をあてがっては、ちゃっかり戦争景気で儲けた。

どこまでがジョークでどこまでが本気なのかわかりづらい。小説というものはきちんとしたスジがあるものだと思い込んでいただけに、時系列のデタラメさや、荒唐無稽な話に、こういうのもありなんだと思いました。

印象的な話をもうひとつ。ある兵士が「俺は頭がおかしい」といって除隊を請願する。しかし、狂気を自己認識できるのは「正常」の証だと言われ、認められない。本当におかしい人間は自身の狂気に気づかないという理屈なんです。そうした矛盾めいた話が、『キャッチ=22』の特徴です。

三島由紀夫の『仮面の告白』は、「産湯を使わされた盥のふち」という有名な一節ではじまる小説です。これほどまで世間の人に対する強い軽蔑と呪詛を表現した作品もないでしょう。高校生のときに読んでかぶれてしまいました。

仮面の告白

三島は太宰治と比べられたりします。二人とも世間を蔑むのは同じですが、太宰がジメジメと自己憐憫にとどまっているのに対して、三島には「世界をぶっ壊してやる」という戦闘心があります。

地味なテーマでも惹き込まれる理由

私は、大学を出て勤めた会社を8ヵ月で辞めました。その後、親には「国会図書館の司書になるから」とゴマかし、勉強する振りをしてずっと定職に就かずにいた。

将来に不安がなかったかと訊かれると、三島や太宰を読んでいたおかげで、30歳まで生きるイメージを持たずにすんだ。30代が目の前に迫って軌道修正し、文章を書く仕事を得たものの、酒浸りになってしまったんですけど(笑)。

次の『車輪の下』は雑誌「中学一年コース」の推薦図書でした。神学校の寄宿舎で生活する少年の話です。彼が壁にぶつかり、思い悩み、悲劇的な最期を迎える。「大人の汚さ」が頭に刷り込まれました。

両親は教養のない人たちだったので、子供には本を読ませようとするんだけれども何を薦めたらいいか分からなかったんでしょうね。子供の頃、うちにあった本といえば、親父が買ってきた講談本と紙質の悪い文学全集くらい。

その中に『車輪の下』も入っていたと思います。しかし中学生が読むには内容が暗すぎて、もう人生が歪んでしまいましたよ。

車輪の下