前述のマリー=フランスは、モラル・ハラスメントを「仕事上のストレス」とは異なり、屈辱されること、そしてハラスメント=「小さな攻撃を絶え間なく、何度も行う」ことで、「一見したところでは気がつかないほど小さな攻撃でありながら、被害者の心身に破壊的な力を持っている」とする。

私の聞き取りでも、「何を言ってもいい系女子」になった結果、深く傷つき、休職や転職に追い込まれたケース、「線路に飛び込みそうになった」「医師から『あなた飛び込みますよ』と言われた」などのケースがある。

女性特有の要因

このような構造は、もちろん、男性にも対してもある。ただ、やはり女性に対しては仕事の内容に加えて、美しく職場の華であることを求められる、家庭での役割規範を押し付けられるなど、時に矛盾した要求が突き付けられていることが多い。そしてそのような期待を逸脱した場合に、それが「いじり」のネタになっていく。

@ikanano 分かる まさしく“男性化”して働かなければならない環境で事あるごとに「女性の役割」を求められ、かと思えば「お前は女じゃない」を誉め言葉としてかけられる 少なくとも私は今そんな環境で働いている

@like_red_sky 働いていれば、あるあるすぎる。彼氏いない、結婚してないだと完全にプライベートもいじられネタだし、「結婚はいい、子供は産んだ方がいい」と言われる。

@nsks33 女性が男性の中で働くと、男性なみに成果を求められた上で、女性らしい柔軟性も、女性として男が喜ぶ美しさも、飲み会コンパニオンも求められて辛い 美容に金かけたくないけど、綺麗じゃない女性への当たりは厳しい

北中淳子『うつの医療人類学』(2014)によると、うつ病は欧米では長い間、空の巣症候群の中年女性など、「女性の病」とされてきた。一方、日本では「男性の病」として語られてきており、またそれが患者自身によっても「過労」と紐付けられることが多いという。

つまり、実際にはうつ病になった人の背景に、家庭の問題やその他の複雑な要因が絡み合っていても、男性は「過労の産物」というプロトタイプ化したストーリーとして語りがちということだ。

それは遺族や弁護士たちの「過労自殺、過労うつ病をめぐる社会運動」(北中2014)の成果ともいえ、こうした社会運動は社会の認識を広め、自殺対策基本法(2003年制定)や企業の精神障害対策を打ち出すうえで大きな意義があったといえよう。