政治政策
安倍首相の「憲法改正」戦略は、実に巧妙である
自民党の反発さえも抑え込む自信アリ?
長谷川 幸洋 プロフィール

首相提案が問題をはらんでいるのはたしかだ。軍隊の存在を否定したまま自衛隊の存在を明記すれば、論理的に「自衛隊は軍隊ではない」という話になる。やはり自衛隊は軍隊ではないか。結局、現行憲法が抱える矛盾はそのまま残ってしまう。

一方で、憲法に自衛隊を明記すれば「自衛隊は違憲」という議論に終止符を打つことができる。つまり、首相の提案は「自衛隊が軍隊かどうか」という問題より「憲法違反かどうか」という問題を解決する点に主眼がある、と理解できる。

自衛隊が軍隊でないとすると、自衛隊員が敵国の捕虜になった時に適正な処遇を得られるか、といった問題が生じる。兵士であればジュネーブ条約上、相手国は捕虜として人道的に待遇しなければならない(http://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/geneva3.html)。

私は将来、自衛隊が敵国と交戦状態になる場合を考えるより先に、まずは日本国内で自衛隊を合憲とはっきりさせるほうが政治的には優先事項だと思う。だから首相提案に賛成する。問題があれば、あらためて第二弾の改正を考えればいい。

大きな変化

憲法に対する国民意識はここ数年で大きく変わりつつある。

たとえばNHKの世論調査を見ると、2015年4月調査では「憲法改正の必要がある」が27.7%、「必要はない」が24.6%と賛否が拮抗していた。この傾向は16年4月調査でも「必要がある」は27.3%、「必要はない」が30.5%とほとんど変わっていない。

残りの回答は何かといえば「どちらとも言えない・分からない」だ。15年4月調査で計47.7%、16年4月調査でも42.2%に達している。つまり、憲法改正について賛否がはっきりしない回答がもっとも多かったのだ。

 

ところが、17年3月調査になると「改正の必要がある」が42.5%、「必要がない」は34.4%になって「どちらとも言えない・分からない」は23.2%にとどまった。これは大きな変化だろう。

背景には中国や北朝鮮の脅威が強まり、安全保障に関する関心が高まった事情がある。自衛隊の明文化に賛成が多かったのは、国防軍はともかく脅威に対処する自衛隊の位置づけくらいははっきりさせたほうがいい、と多くが考えたからではないか。

安倍首相自身のスタンスの変化もある。一言で言えば、理想論から現実主義への転換だ。国防軍明記は理想かも知れないが、国民の間に抵抗感も根強い。であれば「自衛隊は合憲」と考える政府を国民が選んできた現状を受け入れて、そのまま憲法に書く。それが改正への近道とみたのだろう。