2. 時間には「価格」がある

約束の時間を守ることが大事なのは、特定の時点を後で取り戻すことが出来ない不可逆性があることに加えて、ビジネスパーソンの時間には経済価値、いわば「価格」があるからだ。

「時給」で計算するとして、例えば年収1000万円なら1時間当たりの価格は5千円だ(年間労働日を250日、1日8時間労働で計算)。実際には、企業ではその人が時給以上の価値を生産しているから報酬を払うことが可能なのであって、ビジネスパーソンの本来の時間価格は「時給」よりも高い。

1000万円プレーヤーが30人出席する大会議が2時間行われたら、時給換算の時間コストだけで30万円掛けていることになる。社内でも他人の時間を使うことに対してはコスト意識を持つべきだ。

また、個人の場合、通勤時間が30分延びると、通勤に費やす時間が1日1時間増える。同じく年収1000万円の方の時給で換算すると、一月に20日出勤するとして、毎月10万円の時間コストを払っていることになる。

中には、通勤時間を有効活用しているから大丈夫だと言い張る人がいるかも知れないが、通勤時の交通事情を考えると時間のコストだけでなく、肉体的・精神的な疲れを追加的に被っている人が多いのではないか。「職住接近」をお勧めする所以だ。

同じ場所に行くのでも、新入社員は電車、部長はタクシー、社長は運転手付きの車、と交通手段が異なるのは、それぞれの時間の経済価値が異なるからだ。もちろん、社長には大いに働いて貰わなければならない。

3. 「〆切り」の使い方

時間の概念と共に、「〆切り」というものは、人類の発明の中でも最大級の物の一つではないかと思う。少なくとも筆者のような凡人は、〆切りがあるからこそ、原稿も書けるし、仕事も進む。他の多くの方もそうなのではないか。

世の中から「〆切り」という概念がなくなると、頼りなく弛緩した、張り合いの無い時間が流れるにちがいない。

本稿のような記事(当然〆切りがある)以外にも、特に単行本のやり取りを多数行うようになって、筆者は、「〆切り」の使い方に巧拙があることを知った。

大きな時間単位(例えば2ヵ月、3ヵ月)で大きな仕事(例えば書籍一冊分の原稿)を任せて、〆切りの少し前(1週間前)に、「そろそろ〆切りです」と連絡して来る編集者は、〆切りの使い方が下手だ。なぜなら、頑張っても達成できないことが確実な時に〆切をリマインドされても、やる気は湧かないからだ。

人間の「頑張り」を適切に引き出すために〆切りを使うには、その人が頑張ることのできる時間単位に合わせて、作業を分割して、「頑張ればできる〆切り」を与え、〆切りまでにできたという達成感を味わわせて、次の〆切りで次の作業を行って貰うといい。

もちろん仕事の性質にもよるのだが、個人によって「その人が頑張ることのできる時間単位」が異なるのが普通だ。例えば、上司は部下一人一人について、どのような単位に作業を分割して、どのような〆切りを与えるのがいいかを知る価値がある。これを知ることによって、大幅に能率が上がるのだから、そのための努力には価値がある。

筆者の拙い上司経験でも、頑張る時間単位が2週間くらいのじっくり型の部下もいれば、2日でも長いかも知れない短期処理型の部下もいた。どちらの、部下も適切に仕事を与えるなら十分有能であった。

そしてもちろん、〆切りの達成と共に、仕事に対するフィードバックがないと部下(あるいは編集者から見て執筆者)に、次の仕事の能率をアップするポジティブな達成感が生まれない。

なお、時間とは別のテーマになるが、適切な感想を述べる「感想力」が上司や編集者といった仕事では重要であることを付記しておこう。