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医療・健康・食 ライフ 週刊現代

薬を減らすことは、薬を始めるよりはるかに難しい

断薬を真摯に考える医者こそ良医である

副作用の倍々ゲーム

「先日、入所された76歳の患者さん(女性)は全部で12種類も薬を飲んでいました。

降圧剤で2種類、糖尿病薬で3種類、他に高脂血症の薬、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬に胃薬、骨粗鬆症の薬にビタミン剤など。

本人も『私の朝ごはんはお薬なのよ』と言っていましたが、これだけ飲んでいれば本当にお腹も膨れてしまいます。

新しい主治医の先生と相談しながら、2ヵ月ほどかけて半分くらいに減らしたら、明らかに体調が良くなって、これまでより元気になってしまいました」

こう語るのは都内の老健施設に勤める看護師。

 

高齢者の薬の多剤併用(ポリファーマシー)が問題になっている。厚労省は4月17日、「高齢者医薬品適正使用検討会」を開き、高齢者が複数の薬を飲むことによる副作用の実態を詳細に調べることを決定した。

多剤併用が大きな問題になっている理由は大きく分けて2つある。1つは医療財政の問題。高齢化が急速に進むなか、日本の薬剤費は膨張を続け、'16年度は10兆円を上回っている。

医療費の自己負担の少ない高齢者はコストを考えず、医者の言われるまま処方され、場合によっては大量の薬を飲まずに残しているケースも多い。この先そのような無駄な医療は許される状況にない。

そしてそれより大きな問題が、副作用だ。

前出の検討会の構成員を務める日本老年医学会理事で東京大学大学院教授の秋下雅弘氏の研究によると、薬の種類が6種類以上になると「薬物有害作用」、いわゆる副作用の発現頻度が急増することがわかっている。

東大病院老年病科の入院患者2412名を対象に行われた研究によると、飲む薬が1~3種類の場合は、副作用の発生頻度が約7%、4~5種類で約9%、6~7種類で約13%となっている。

さらに都内診療所通院患者165名の転倒発生頻度を調べたところ、薬が4種類以下だった場合は20%以下だったのに対して、5種類以上になると40%と倍増している。

開業医として実際に多剤併用をしている患者を目の当たりにしてきた長尾和宏氏が語る。

「中規模病院における後期高齢者の処方に関する研究では、後期高齢者の約5人に1人が10種類以上の処方を受けているという結果でした。

実際、私がこれまで見たなかでいちばん薬が多かった人は、30種類ほど飲んでいました。これにはさすがに驚きました。一度に飲む量が茶碗一杯ほどもあるのです。

患者さんは『フラフラする』と訴えていましたが、降圧剤だけで10種類以上も飲んでいるので、低血圧になって足元がおぼつかなくなるのは当たり前です」

多剤併用のいちばんの問題点は、薬同士の飲み合わせによって副作用が乗数的に増えることだ。

都内大学病院に勤める内科医が語る。

「2種類までの飲み合わせであれば、ある程度研究が進んでいるのですが、3種類以上の飲み合わせになると、ほとんど研究がない。4種類の飲み合わせに関しては皆無です。

つまり、4種類以上の薬を処方されている人は科学的にも安全性が示されていない未知の領域にいるといっていい。

老年医学界では一応、薬の上限は5種類までと目安を設定しています。しかし、本当に患者の健康を考える医者なら3種類まで、それ以上はできたら処方したくないと感じるでしょう」

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「処方カスケード」の恐怖

持病や大きな既往症がなく、健康診断の数値を気にしている程度の健康な患者に対して、4種類以上の薬を出すような医者は信用できない、ということだ。

「ある薬を飲んでいて副作用が出たとします。それで別の病院に行って、『こういう症状があるのですけれど』と相談すると、副作用を新しい病気だと診断されてしまい、さらに新しい薬が出される。そしてまた別の副作用が出る、という悪循環に陥る場合があります。

このような状態を『処方カスケード』(カスケードは滝、数珠つなぎの意)と呼ぶのですが、高齢者はこれになりやすい」(前出の大学病院内科医)

かかりつけ医が1人いて、患者の状態をしっかり把握していればこのような問題は生じにくいが、症状が出るたびに新しい医者や薬局にかかっていれば、誰も投薬の全体状況を把握できないのである。

「たとえば降圧剤のなかには副作用で咳が出やすくなるものがあります。ACE阻害薬というタイプの薬です。咳が出るのが降圧剤のせいだと見抜けなかった医者が咳の薬を出したり、眠りが浅いというので睡眠薬を出したりして、患者がふらついて転倒してしまうというのはよくあることです」(大学病院内科医)

薬を減らすことは、薬を始めるよりはるかに難しい。断薬を真摯に考えてくれる医者こそが本当の良医なのだ。

「週刊現代」2017年5月27日号より