生命科学

「死んでしまいたい」と五月病に悩む人に知ってほしい人間のスゴさ

陸上で立ち、食べ、生きることのキセキ
本川 達雄 プロフィール

エサ集めに苦労し、消化に苦労し

陸の気温は夏と冬とで大きく異なるだけでなく、昼と夜でも10度ほど違ってきます。日なたと日陰でも差があります。また、地面は空気よりもさらに温まりやすく冷めやすいため、腹のすぐ下に地面がある小さな動物は、地面の温度の影響をまともに受けてしまいます。だから、陸では体感する温度変化がきわめて大きくなってしまうのです。

さて、生きているということは、体内で化学反応が進んでいることを意味し、化学反応の進む速度は体温に強く影響されます。外界の温度が変わるごとに体温が変わり、化学反応の速度がふらふらと変動するようだと、じつに始末の悪い事態となります。

したがって、まわりの温度が大きく変わりやすい陸上は、生物にとってまことに住みにくい環境なのです。

この問題を解決したのが鳥類や哺乳類でした。これらは恒温動物であり、自分で積極的に体温を一定に保っています。まわりが寒くなれば食物を燃やして発熱します。暑い時には汗をかいて体から水を蒸発させ、その気化熱で体を冷やします。

ただし、そのためには大量のエネルギーが必要となるうえ、陸上では貴重品である水を失うことにもなります。

恒温動物は陸に住むものですが、そのために変温動物の10倍ものエネルギーを使っています。そしてそれをまかなうために、せっせと苦労して食べにくいエサを集め、さらに苦労して消化しているのです。

まだまだ語りきれないほど、陸での生活には大変なことがたくさんあるのですが、それを大変とも感じずに私たちは日々暮らしています。これはすごいことです。体は文句もいわずに、こんなすごいことをし続けています。けなげだなあと思いませんか。

 

夢よりも、自己実現よりも

最近、「成人の4人に1人が自殺したいと考えたことがある」というニュースがありました(平成28年度自殺対策に関する意識調査、厚生労働省、2017年3月21日公表)。住みにくい世の中を反映した話なのでしょうが、これほど多くの人が死にたいと思うのは、やはり異常というほかないでしょう。

「夢をかなえよう」「私らしく生きよう」「自己実現しよう」という言葉をよく耳にします。何者かにならなければ意味がない、ただ存在しているだけでは無意味なんだ、と考える方が多いからなのでしょう。

でも夢を実現するのは簡単ではありません。だからこそ、死にたいと思う人が出てくるのだろうと思います。

私は生物学者です。生物を見ていると、生きているだけでもすごいことだ、余計なことなど何もしなくてもいい、こうして生きていることに、ものすごく意味があるのだと思えてきます。

もちろん人間はただ生きているだけではなく、もっと高級なこともやっているのですが、それでもまず、生きていることをじゅうぶん尊重する。そのうえで、より高級なことを考えるという順番を踏むべきだと思うのですね。

「精神の健康のために、自身の体のすごさを、ときどきは思い出すのがいい」とは、老生物学者からのアドバイスです。

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