生命科学

「死んでしまいたい」と五月病に悩む人に知ってほしい人間のスゴさ

陸上で立ち、食べ、生きることのキセキ
本川 達雄 プロフィール

もちろん、陸の動物を食べるのも、簡単なことではありません。

体が丈夫なクチクラ(昆虫の場合)や毛皮で包まれていますから、これを取り除かねばなりません。それに、頑丈な骨をもっているし、筋肉を包む丈夫な筋膜や腱もあり、これらも取り除かねば、おいしい肉にはたどりつけません。

それに比べて、水の中では、食べるのも非常に楽。水中の生物は立派な骨格や、乾燥を防ぐ表皮をもっていないからです。

水の中には、ものすごく楽な食生活を送っているものたちがいます。アサリやホタテ、ホヤなどです。彼らは海水中にただよう有機物の粒子を濾しとって食べる「濾過摂食者」です。

水中では浮力が働きます。だから、死んだ遺骸は分解されて小さな粒子になってただよっているし、生物の卵も幼生もプランクトンも浮いています。なので、流れのあるところに網を張って待っていれば、食べものが自然と集まってきて一網打尽です。すでに細かくなっていて噛み砕く必要がないので、頑強なアゴもいりません。

魚の祖先は濾過摂食者で、アゴをもっていませんでした。捕食魚になってはじめて、アゴが登場したのです。

陸では糞をたれ流しにできない

ところで、私たちの腸には、小腸と大腸がありますね。魚にはその区別がありません。小腸は消化吸収をおこなう腸ですが、魚はこれだけ。四肢動物になってはじめて大腸ができました。陸上では排泄物をためておく必要があるからです。

水中ならば、水洗トイレの中にいるようなものだから、消化しきれなかったものはそのまま体から出せば、水に流されて四散します。

陸の場合はそうはいきません。もし点々と排泄物を出しつつ歩いていけば、それを手がかりにして、捕食者に跡をつけられるおそれがあります。だから、排泄物はまとめてたまに捨てる用心が必要です。そのためにためておく場所が大腸なのです。

また陸上では、水は貴重品ですから、体内にためておく糞から水をできるだけ回収します。微生物を大腸に住まわせ、自分で分解できないものを微生物に消化してもらい、栄養の足しにすることも行われるようになりました。

人間の場合、腸内には100種以上100兆個もの細菌がおり、その多くは大腸にいます。草食動物の場合、さらに多くの細菌を消化管に住まわせています。

温度変化に耐えることの大変さ

けものは毛皮を、鳥は羽毛をまとっています。体の表面から水が逃げていかないようにするのと同時に、体温を保つ役目があります。陸では気温の変化が激しいから、私たち人間の場合は、防寒コートがいるのです。

空気は水に比べ、温まりやすく、冷めやすいものです。同じ体積の水と空気とで比べると、温度を1度上げるのに、水は空気より3500倍も多くの熱を加える必要があります。だから水温は安定していて、季節の移り変わりに伴ってゆっくりと変わるくらいなのです。

冬でも水温はマイナス1.8度以下にはなりません。この温度だと海水は凍りますが、南極や北極であっても、凍るのは海の表面だけです。氷が水に浮いて断熱材として働くため、海上でマイナス60度のブリザードが吹いていても、氷の下は凍らない温度に保たれるのです。