生命科学

「死んでしまいたい」と五月病に悩む人に知ってほしい人間のスゴさ

陸上で立ち、食べ、生きることのキセキ
本川 達雄 プロフィール

では、どうやってそのリスクを回避しているのでしょう。

じつは、陸の動物は交尾によって精子を直接メスの体内に送り込み、精子を外気にさらさないようにしています。受精した卵は、そのまま母の胎内で育てるか、立派な殻をつくってその中で育てます。

さらに、生まれて(外気にさらされるようになって)からも、ある程度育つまでは、乳ややわらかくしたエサを親が与えます。陸の食べものは消化しにくいからです。

このように、子づくり・子育てはまことに面倒なのですが、それは陸に住む者の宿命です。海の中では、親は卵や精子をただ放出するだけで、とくに面倒をみなくても、自然に受精して育っていきます。

 

生物が体を支えることの大変さ

陸では、生物が体を支えるのも大変です。地球の重力に押しつぶされないよう体の形を保つためには、しっかりした骨格系が必要になります。

骨格とは、力が加わっても体がへしゃげないように、体の形や姿勢を保つ堅固な構造物のことです。重力や風のような外からの力に抵抗して姿勢を保つだけでなく、筋肉を使って自らが出す力を外界に伝える役目ももっています。

足の骨がへにゃへにゃしないからこそ、私たちは筋肉で脚を動かして大地を蹴ることができるのです。

一方、水の中だと浮力が働いて、重力をほとんど打ち消してしまうため、それほど立派な骨格系は必要ありません。

そして水の中だと、動くのもじつに楽です。体がふわふわ浮いており、無重力状態のようなものですから、ヒレをさっと動かすだけで体が進みます。さらに水の流れに乗ってしまえば、何もしなくても長距離移動ができてしまいます。

陸では体重という重荷を背負って進まねばなりません。そのうえ、ただ前に体を運ぶだけではすまないのです。

べったりと地面に体をつけたまま進むと、地面から大きな摩擦抵抗を受けます。そこで四肢をはやし、体を持ち上げながら進むわけです。持ちあげるだけでも結構なエネルギーが必要なのに、さらにそれを動かすのだから、大変なことです。実際、歩いたり走ったりするのは、泳ぐのに比べるとじつに10倍近いエネルギーが必要になります。

動物はエサを探さないと生きていけないので、大変だから歩かないというわけにもいきません。

陸の食べものは手ごわい、とくに植物は

大変な思いをして歩きまわって、いざ食物が手に入っても、そこから先が大変です。

陸の食べものは手ごわい。とくに植物は。え、動物の間違いじゃないかって? 植物だってとても手ごわいのです。ポイントは「消化」です。

動物の腸の長さを比べてみると、消化の大変さがよくわかります。人間だと、腸は身長の4.5倍ほど。魚ではずっと短くて、体長と同程度です。植物を食べるウシではなんと体長の30倍、60メートルもあります。

植物の細胞は、1個1個が硬い細胞壁で包まれています。ちょうど弁当箱に入っているような感じです。この箱をどんどん積んでいくことで、植物は重力にも風にも負けない体をつくっています。だからこそエサとしては扱いにくいのです。

細胞壁細胞のイメージ photo by gettyimages

細胞壁は丈夫なセルロース繊維でできています。動物はセルロースを消化する酵素をもっていませんから、細胞壁をむりやり砕いて壊さないと、中身を食べられません。細胞1個ごとに壁を壊すのですから、手間がかかります。

私たちは立派なアゴをもっており、そこに挽き臼のような歯が生えていますが、それでよく噛み砕きます。それでも完全には破砕しきれませんから、長い腸で時間をかけ、細胞の壊れた隙間から消化液をしみ込ませて、じょじょに消化していくのです。