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生命科学

「死んでしまいたい」と五月病に悩む人に知ってほしい人間のスゴさ

陸上で立ち、食べ、生きることのキセキ
ゴールデンウィーク明けから梅雨入りのこの時期、元気がなくなったり、体調不良が続いたり、会社や学校に行きたくなくなる人が増える。「死んでしまいたい」と自殺を考える人も少なくない。

もしあなたがいまそんな状況にあるなら、生物のありようを長年観察、研究し続けてきた東京工業大学名誉教授・本川達雄さんのことばに、ぜひ耳を傾けてほしい。われわれ人間は、何も実現できなくても、何も達成できなくても、ただ生きているだけで、奇跡のように「スゴい」ことをしているのだ。

拙著『ウニはすごい バッタもすごい』から、“軍拡競争”をしたがる人間などの生物に比べて、ナマコの築いた地上の楽園がいかにスゴいかを、前にご紹介しました。

「やたらと戦争をしたがる人たちに教えてあげたい『ナマコ』の話」はこちら

今回は逆に、人間のスゴさを紹介しましょう。私たちはふつう、自身のスゴさを、脳が発達しているところに感じていますが、じつはスゴいのは脳だけではないのです。

成功や誇りより「水」が必要だ

私たちの体は、何からできているかご存じですか。

そう、水です。体は重量にして6〜8割が水であり、細胞の中身は85%もが水。これだけの水があってはじめて生きていけるのが生物です。

ジャボジャボの水環境の中で化学反応が起こっていて、それにより生命が維持されています。水がなければ化学反応が進まず、生きていけません。

地球は水の惑星であり、海という水だらけの環境で生命が発生しました。だからこそ細胞の中は水だらけだし、細胞は組織液という水にひたされています。陸に上がった私たち人間のような生物も同じです。生物は水に住もうが陸に住もうが、水っぽいものなのです。

生物は約38億年前に海で誕生し、それからもずっと海の中で暮らしてきました。陸へ上がったのはわずか4億5千万年前。それもきわめて限られた仲間が上陸に成功したにすぎません。

植物がまず上がり、それから昆虫が、そして最後に四肢動物が上陸しました。魚から両生類(イモリやカエルの仲間)が進化し、彼らが陸に進出したのです。ただし、両生類は水から完全には離れられず、幼生は水の中で育ちます。爬虫類や哺乳類になって、真に陸の生物になったのです。

古代の海古代の海のイメージ photo by gettyimages

水が1割失われただけで人は死ぬ

上陸にあたっては、解決しなければならない問題が山ほどありました。しかし、それらをすべて解決し、私たちはいま大地の上で生きています。これは本当にすごいことなのです。

なんといっても、水の問題を解決しなければなりませんでした。

体は水の入った器(うつわ)のようなものですから、放っておけば水は蒸発してなくなってしまいます。そこで陸の動物は、体の表面を水を通しにくいものでしっかりと覆いました。爬虫類なら鱗(うろこ)、鳥は羽毛、けものは毛、そして私たち人間の場合は皮膚です。皮膚にはセラミドという脂質が含まれており、これが水の逃げるのを防いでくれます。

ただし、それでも水は逃げていきます。とくに、呼吸するときに肺の表面から逃げていきます。だから私たちは水を飲まねばならないのです。

 

「飲まず食わず」という言いまわしがありますね。人間の場合、食べるほうは3か月近く大丈夫らしいのですが、飲まなければ5日しかもちません。体内の水の約1割が失われると死に至るのです。

水不足で干からびるリスクは、とくに体の小さい時期(卵・精子・胎児の時期)に大問題になります。水を蓄える体が小さいわりに表面積が大きいので、水が逃げていきやすいのです。