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企業・経営 アメリカ

日本経済「長期停滞」の本当の原因〜アメリカに学んではいけない!

短期主義がイノベーションを潰す

起業大国から転落したアメリカ

「ではの守」という言葉をご存知だろうか。

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何かにつけて「アメリカでは~」「シンガポールでは~」と海外の事例を持ち出しては羨ましがり、それをもって日本の現状を批判し、「日本でも~を導入すべきだ」と他国の制度を真似たがる。

そういう人を「出羽守」と引っかけて皮肉ったのが、「ではの守」である。

経済や経営の議論では、この「ではの守」が頻繁に登場する。中でも、ベンチャー企業やイノベーションについて語られる際には、「アメリカでは」「シリコンバレーでは」と、「ではの守」が大見得を切るのが定番となっている。

例えば、こんな調子である。

 

「アメリカでは、若者がリスクをとってベンチャー企業を次々と起こしている。シリコンバレーでは、世界中から優秀な人材が集まってきて、次々とイノベーションを生み出している。グーグル、アップル、フェイスブックを見よ。これこそが、アメリカ経済のダイナミズムだ。

それに比べて、日本人はリスクをとろうとしない。雇用の安定した企業にしがみついている。だから日本経済は長く低迷しているのだ。」

もっとも、「ではの守」が一概に悪いと言うつもりはない。海外に学ぶべき成功事例があるのに、「日本には日本のやり方がある」などとかたくなに拒むこともないであろう。

だが、問題は、「アメリカではの守」の多くが、当の「アメリカ」の実態を正確に理解していないということなのだ。

アメリカの実態

例えば、過去30年間のアメリカにおける開業率と廃業率の推移を見てみよう(図1)。1

アメリカにおける開業率は、1980年代半ばから、ほぼ一貫して下がり続けている。しかも、2009年以降の開業率は、1978年の約半分しかない。

さらに、次の図2は、30歳以下の起業家の比率であるが、これも1990年代を通じて減少ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減している。2若者の起業家の比率は、1990年代のIT革命以前の方が高かったのだ。

 

しかし、ベンチャー企業を論じる「ではの守」の中で、この事実を指摘している者にはお目にかかったことがない。

アメリカ経済は、明らかにダイナミズムを失っているのである。

例えば、アメリカの全要素生産性(TFP)は、1947年から1973年までに比べて、1974年以降は鈍化している(図3)。経済学者のタイラー・コーエンは、過去40年間のアメリカ経済を「大停滞」と呼んでいる。3

あるいは、アメリカの男子フルタイム労働者の中位の実質賃金の推移は、1970年代半ば以降、横ばいである。恐るべきことに、一般的な労働者の生活水準は、過去40年間、上がらなかったのだ。これによる労働者の不満が、ドナルド・トランプを大統領へと押し上げたと言っても過言ではない。

最近では、著名な経済学者のロバート・ゴードンが、1970年代半ば以降のアメリカでは、画期的なイノベーションが起きなくなっていると警鐘を鳴らしている。1990年代のIT革命が「第三次産業革命」として喧伝されているが、それも過去の二度の産業革命に比べたら、たいした効果はなかった。このゴードンの主張は、アメリカで大きな話題を呼んだ。

要するに、アメリカでは、1980年代以降、経済が停滞していたのである。アメリカは、「ではの守」が喧伝するようなベンチャー企業とイノベーションのパラダイスではない。長期停滞に苦しむ日本が手本とすべき国ではなかったのだ。


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