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効果のない対貧困政策を顧みない残念な世界に終止符は打てるか

データが解き明かす人間行動の法則性

多くの政策は「思い込み」で実行される

いま世界で最も注目される開発経済学者の一人であるエステル・デュフロ氏は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のチームの仲間たちと一緒に、ランダム化比較実験(RCT)を世界各地で実践している。

前回は、日本語訳が出た『貧困と闘う知-教育、医療、金融、ガバナンス』を素材として、政策研究に「革命」をもたらしたRCTという手法の概略を紹介した(参照「ピケティと並ぶスター経済学者が政策研究にもたらした『ある革命』」)。

RCTの基本はシンプルである。

特定の政策の対象になるグループと対象にならないグループをランダムに分けて、政策の効果を客観的に計測するのだ。

たとえば、子供を予防接種会場に連れてきた親に、1キロのレンズ豆(インドでは主食の一部)というささやかな報償を与えることにする。

さて、接種率はどのくらい向上するだろうか。

 

調査協力者をランダムに選び、一方のグループ(処置群)では親にレンズ豆を与え、別のグループ(対照群)には与えない。そして、処置群の方で予防接種率が向上したとしたら、それは純粋にレンズ豆の報償の効果だったことがわかる。

日本のような先進国でも、同じような実験を考えることができる。禁煙の促進、出生率の向上、自殺率の低下、女性の地位向上、学力の向上、生活習慣病の予防、より一般的に各種の補助金の効果など、多様な政策への応用が考えられる。

商品のマーケティングにも応用できるだろう。たとえば、ランダムに選んだ顧客グループごとにダイレクトメールの内容を変えて、反応の違いを統計的に観察してみるわけである。

市民や顧客に何を提案したら目標を達成できるのか、科学的に効果を計測しよう、ということだ。

発展途上国でも日本でも、多くの政策は「思い込み」や「期待」だけで実行に移され、客観的な効果は検証されないままである。

しかし、デュフロ氏たちのチームの活発な活動が推進力となって、途上国のあちこちでRCTが大規模に実施されるようになってきた。