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ビールにガソリン…政府主導の「値上げ強制」にイオンが反旗!

官民「物価戦争」のゆくえ
加谷 珪一 プロフィール

ガソリン値上げの「政府の思惑」

官製インフレはビールだけではない。ガソリン価格の高騰も政府による施策のひとつと考えることができる。

2016年の前半には1リットルあたり100円程度だったレギュラーガソリンの価格は一本調子で上がっており、今年の4月には125円を突破する状況となっている。ちなみに同じ期間における原油価格は1割程度しか上がっていないので、ガソリン価格の高騰は際立っている。

ガソリン価格だけが上がっているのは、政府主導で石油業界の寡占化が進み、供給量が減ったことが主な原因である。

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日本国内の石油精製施設は設備過剰の状態が続いており、再編やリストラが必至といわれてきた。しかし石油業界は現状維持に固執し、設備過剰の状態をダラダラと続けてきた。

この状況に業を煮やした経済産業省は「エネルギー供給構造高度化法」に基づき、製油所の再編を強く要請。上からの構造改革が進むことになった。

経産省の強い意向を受け、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油は経営統合を実施(統合後の新会社であるJXTGホールディングスが4月に発足)。出光興産と昭和シェル石油も合併に向けた協議を続けている。経産省としては、最終的に大手2社の寡占体制とすることで石油の需給を引き締めたい意向だ。

 

石油業界が従来の業界慣行に甘んじ、構造改革を先送りしてきたのは事実だが、企業の経営に政府が露骨に介入することについては批判の声も大きい。出光と昭和シェルの合併については、出光の創業家が強く反対していることから協議が難航しているが、これも政府による過度な介入が大きく影響した結果とも言える。

出光と昭和シェルの合併は進んでいないものの、JXTG単体でも国内シェアはすでに5割を越えており、流通価格に対する影響力は絶大だ。政府の思惑通りガソリン価格は順調に「高騰」を続けている。

官民「物価戦争」の行方は…

消費者の節約志向は確実に高まっており、現時点でインフレを前向きに受け止められる人は少数派だろう。だが、物価下落が続くようであれば、脱デフレを旗印にしてきたアベノミクスそのものが頓挫してしまう。

その意味で、今回の値上げと値下げの衝突は、脱デフレを何としても進めたい政府と、それに抵抗する民との間で勃発した物価戦争ともいえる。

筆者は政府による企業活動への介入には原則として反対する立場だが、今回の争いについては政府側に有利な展開となりそうだ。国内の人手不足が深刻になっており、日本経済はすでに供給制限によるインフレになりつつあるというのがその理由である。

イオンやセブンは企業体力があるので、値下げを継続することも不可能ではないが、他の企業がこの動きに追随できるのかは何ともいえない。

消費が低迷する中、人手不足によって企業の供給力に大きな制限が加わった場合、企業は利益を確保するため、生産量を犠牲にしても値上げに踏み切る可能性がある。そうなると中身が変わらないままモノやサービスの値段だけが上がり、消費者の購買力を低下させてしまう。

こうした動きが、さらなる消費の低迷を招くという悪循環をもたらした場合、日本経済がスタグフレーション(景気低迷と物価上昇が併存する状態)に陥る可能性もゼロではない。

物価をめぐる争いが今後どのように推移するのか、とりあえずは各社の販売数量に着目する必要があるだろう。小売店が積極的に値下げを行っても、それに見合った販売数量の増加を実現できない場合、じわじわと物価は上昇することになる。

一方、値下げに反応して数量が大きく伸びるようであれば、一定の均衡市場が維持されるかもしれない。結果が分かるまでにはそれほど時間はかからないはずだ。