オリンピック
東京パラリンピックを大成功させるには、この「奇跡」に学べ
乙武洋匡がロンドン取材!
乙武 洋匡 プロフィール

「パラリンピックは素晴らしい」ではダメ

乙武 結果的に、このパラリンピックではチケット完売を成し遂げたわけですが、パラリンピックをPRする時に、一番心がけていたことはなんですか?

ホームズ 「パラリンピックは素晴らしい!だからチケットを買ってください」というPRはしませんでした。それは、人々とパラリンピックを繋げることにはならず、後から「商業主義的だ」批判を受ける可能性もあるからです。

私たちが意識したのは、チケット購入者の立場や気持ち、価値観を理解し、それらをパラリンピックと繋げていくことでした。つまり、タッチポイントを探ることです。

具体的には、障害者スポーツは「世界レベルのスポーツ」であり、「英国がこの分野の最前線におり、成功・優勝を遂げられること」を伝え、かつ「情熱にあふれた世界であること」をアピールしました。これまでの閉鎖的なイメージを刷新したことが、成功につながったのだと思います。

 

また、私たちは、シドニー以降にパラリンピックが行われた開催地を全て訪問し、それぞれの開催地で運営に関わっていた人たちと議論を交わしてきました。もちろん、それらの議論から学ぶことは多くありましたが、過去の大会から変化を起こすためには、これまでにはなかった新しいやり方を生み出すことも、とても重要でした。

重要なポイントは、それらの学びを、ロンドンの文化、社会、経済に合わせることでした。つまり、「ロンドンにふさわしいパラリンピック」を創ることを心掛けたのが成功の一因だと思っています。

チケットに関しては、「手に入れやすさ」・「手頃な価格設定」・「収益」の三本柱を戦略としてPRを行いました。例えば、無料でチケットを配布することは、チケットの価値を下げるため、絶対に行ないませんでした。チケットを価値のあるものとして人々に買っていただくことが大切なのです。

結果、私たちは240万枚のチケットを全て売り切っただけではなく、さらに40万枚のチケットを追加で販売することができました。私たちは、完売させただけではなく、余分に売ることもできたのです。

感動ポルノをどう避けるか

乙武 チケットが多く売れて、人々がパラリンピックに触れた大会だった——ただ、多くの人にとっては、パラリンピックが初めて障害者スポーツに出会う機会になると思うんですね。実際にパラリンピックというものに触れたロンドン市民は、どんな受け止め方をしたのでしょうか。

ホームズ 大切だったのは、人々が障害者スポーツに初めて接触するのが、夏のパラリンピック大会、つまり本番にならないようにすることでした。その大会のみに頼っていたら、チケットの半分も売ることはできなかったでしょう。私たちはできるだけ早い段階で、人々に障害者スポーツに触れてもらう必要があると思っていました。

乙武 なるほど。パラリンピックの時点で「未知との遭遇」にならないよう、それ以前の地ならしを丁寧に行なっていたんですね。

ホームズ その通りです。企画の例としては、パラリンピック大会の1年前に、「インターナショナル・パラリンピックデー」をロンドンの中心で開催したことです。そこではメディアを通してロンドンと世界に向けて、パラリンピックの全20競技を披露し、パラリンピック大会が1年後にロンドンで開催されることへの認知を広めました。

ここでは、イギリス全土の人々にパラリンピックを知ってもらい、実際に試してもらう機会を提供することができました。これが、過去の大会との違いの一つかもしれません。過去の大会では、当日の準備しかしていませんでしたからね。

大切なのは、パラリンピック当日に人々に来てもらうことだけではなく、人々にパラリンピックへの一定の知識と、お金を払ってでも観戦し、その大会の一部に加わりたいという意思を持ってもらうことです。