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これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由

日本はこの構造的問題から抜け出せるか
玄田 有史 プロフィール

氷河期はトラウマとして残った

高齢者や若者について触れてきたが、実のところ、賃金面で近年もっとも辛い思いをしてきたのは、30代後半から40代前半の人々、特に大学卒の人々である。

本のなかには、40代前半の大学卒(大学院卒を含む)の男性の月給を、2010年時点と2015年時点で比較した内容がある。

それによると2015年時点の月給は、10年に比べて、平均すると実に約2万3000円も少なくなっていた。2015年の40代前半は、第2次ベビーブーム世代を含む、いわゆる就職氷河期世代だ。それに対し2010年の40代前半は、ぎりぎりバブル崩壊直前の、売り手就職世代だった。

氷河期世代は、新卒時の就職活動のときだけでなく、その後の職業人生でも、以前の世代に比べて多くの困難を経験してきた。

転職は当たり前になり、賃金が低い中小企業で働いている大卒も以前よりずっと多い。直前の世代の採用が大量だったため、管理職に昇進するのも遅れてきた。それらがすべて氷河期世代の低賃金につながっている。

氷河期世代で深刻なのは、20代の若い頃に上司や先輩からの指導や、勤め先での教育や訓練を受けた経験が少ないと多くが感じていることである。氷河期世代が働き始めた2000年代初めには、今以上にサービス残業という言葉がささやかれた。

だが、激務をこなしてきた経験が、スキルの蓄積につながっていない。たまたま不況期に就職したという理由によって、能力の開発が十分になされず、結果的に低賃金に甘んじざるを得ないとすれば、これ以上の不幸はあるだろうか。

現在、賃金が上がらない背後には、かつての氷河期が影を落としていることも忘れてはならない。

『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』では各章を「需給」「行動」「制度」「規制」「正規」「能開」「年齢」というポイントごとに整理した。

ここで触れられなかった他の重要な理由もある。それらも確かめていただければ、「なるほど」「そうだったのか」と感じることが多いと思う。

そうして日本の雇用が現在抱える、いくつもの構造的問題に対する理解が深まれば、幸いである。