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これだけ深刻な人手不足なのに、いつまでも賃金が上がらない理由

日本はこの構造的問題から抜け出せるか
玄田 有史 プロフィール

そんな恩恵世代の男性が、2000年代後半以降、高齢者となり、徐々に定年退職を迎えるようになる。年功賃金が変化してきたといっても、それでも正社員である彼らの賃金は、若い社員に比べれば、圧倒的に高い。

定年によって、高い賃金を失う人々は、多数にのぼる。そのなかには、いわゆる団塊の世代も含まれていた。高い賃金を得ていた人が、統計のなかから一気に退場していくのだ。当然、平均でみた賃金には、強い下方圧力がかかっていく。

さらに定年で辞めた人たちの多くは、そのまま引退することを選ばない。定年後も嘱託などのかたちで会社に残り続けるか、別の会社で別の仕事に就くことになる。共通するのは、そんな高齢者は、きまって非正規雇用になるということだ。

 

賃金が上がらないのは、非正規雇用が増えたからだという人もいるが、どこで増えたかといえば、実は高齢者の間で増えた。しかも団塊の世代を含む60代の非正規雇用が、一気かつ大量に増えたのだ。

その結果として、非正規雇用の高齢者(特に大卒の高齢者)については余り気味で、賃金はなかなか増えない状況が続いている。

人手不足は、20代などの若い働き手について、特に深刻だ。少子化による人口減少の影響を考えると、若者の賃金は、もっと増えてもよかった。

しかし、若者の背後には、低賃金の大量の高齢者が、潜在的な競争相手として存在している。その影響を受けて、人手不足であるはずの若者、特に正規雇用以外の若者の賃金まで、伸び悩んでしまっている。

政府は同一労働同一賃金ということで、特に非正規雇用の賃金など、処遇改善に力を入れてきた。一方で、労働力人口の減少に対処するために、一億総活躍社会という看板も同時に掲げ、女性や高齢者の労働参加を促そうとしている。皮肉なことに、高齢者の労働参加が続く限り、非正規雇用の賃金はなかなか上がらない。

今後、高齢者や若者の賃金が上がり始めるとすれば、増え続ける高齢者の労働参加が収束した時点だろう。その日は、一体いつ訪れるのか。それはまだ誰にもわからない。