格闘技
村田諒太に聞いておきたかった「あのこと」、返ってきた「本音」
正直、物足りなさを感じていたから

5月20日、ボクシングの村田諒太選手(31)がWBA世界ミドル級のベルトを賭けて、フランスのアッサン・エンダム選手と対決する。ロンドン五輪のミドル級金メダリストがついに大勝負に臨むということで注目を集めているが、東京新聞運動部記者で、ボクシングマガジン誌にも寄稿している森合正範氏が、村田の「本音」に迫った。

森合記者には、どうしても、村田に聞いておきたいことがあった。

「自分への評価は分かっていますよ」

一つの質問を投げれば多くの答えが返ってくる。語彙(ごい)が豊富で、時に哲学的。かと思えば、ユーモアもある。接した人は誰もが好きになる「人たらし」。それが村田諒太(帝拳)というボクサーである。

ロンドン五輪のミドル級金メダリスト。プロ12戦全勝9KO。20日のWBA世界王座決定戦に勝利すれば13戦目で王者となる。これは、ミドル級では世界最短記録だという。数字だけを見れば、順風満帆。しかし、私にはまったく別の思いがあった。偽らざる本音を投げかけた。

――正直に言えば、期待がものすごく大きかった分、ここまでの道のりや試合内容に少し物足りなさ、試行錯誤していたなと感じます。

私がこう言い終えると同時に、笑顔で村田が言葉をつないだ。

「そうですよね。そりゃあ、(プロ)デビュー戦で東洋王者に勝っているんだから、もっとトントン行けよと思いますよね。あの時のバーッという行き方はすごかった。その後、判定までいって、評価を落としたり、実力が足りてないことを言葉でごまかそうとしたこともあった。まあ、この世界にいれば自分の評価は分かりますよ」

そう、そうなのだ。2013年8月25日。プロデビュー戦でいきなり東洋太平洋王者の柴田明雄(ワタナベ)と対戦。たとえ金メダリストであろうとも、29戦のキャリアを持つ柴田のフットワークにてこずるのではなかろうか。そんな予想をしていた。

ところが、蓋を開けてみればワンサイドの2回TKO。勝ちっぷりだけでなく、リングから発散される強烈なオーラ。ひと言でいえば、モノが違った。

村田諒太【PHOTO】iStock

私の中でプロデビュー戦は、現地で取材したロンドン五輪以上の高揚感があった。「村田なら、これまで見たことのない景色を見させてくれる」。期待感で胸が躍った。

 

あれから3年9カ月、デビュー戦以降の11戦。あの日のような特別な感情を抱くことはなかった。結果はすべて圧勝。十分強いのは分かっている。だが、時に倒しきれず、時に不用意なパンチを浴びる姿は、プロのスタイルに馴染めていないとも映った。もがき苦しみ、何かと闘っているようだった。

「プロとアマではスタイルが全然違うんだという考えがあった。でも、そもそもそこが大きな間違いでした。ベースにあるものは同じで、調味料を加えるくらいでよかった。こしょうや七味くらいでよかったのに、ガラッと変えようとしていました。それがよくなかった」

調味料を入れればいいだけなのに、料理を作り替えようとしていた。プロ5、6戦目と判定が続き、米ラスベガス進出となった8戦目のガナー・ジャクソン(ニュージーランド)戦も10ラウンド費やした。村田はスマートフォンを取り出すと、8戦目の動画を再生させた。椅子から立ち上がり、自らパンチを放ち、動きを解説する。

「ほら、左ジャブなのに左ストレートのように打ち込んでいる。左を打ち込むと体が崩れて、右を打っても弱くなる。これが悪い時期。もうある種、ジャブを当てに行くという感覚を捨てました」

人は「捨てる」ことが難しいという。例えばスピード、パワー、スタミナ、技術、タフネス、経験といったボクサーの力を示す六角形の指標があるとする。以前の村田は必死になって、全部の数字を上げ、大きな六角形を描こうとしていた。

「僕ならパワー、スタミナ、タフネスが上がっていて、スピード、技術、経験値とかはそんなにいいと思わない。弱点を伸ばそうと思って、良いところが減っていったら意味がない。むしろ、六角形の形はいびつであったほうがいい。どこで勝負するかという話。僕はガードを固めて、前にプレッシャーをかけて、右を打ち込む。それで勝負するんです。そのスタイルが通用するかしないかというだけ。単純な話なんです」

六角形はいびつでいい。強い意思とプロとして生きる道。そのことに気づいたのが昨年の5月だった。

石井慧と村田諒太、五輪金メダリストの「その後」を考える

スポーツコミュニケーションズ,近藤隆夫