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アメリカが金正恩を暗殺しない理由〜やる気があるのかできないのか

鍵はトランプの「ビジネスマインド」
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一方でトランプ大統領は、表面的には金正恩に対して強硬な発言を繰り返しているが、意外にも「斬首作戦」実行には後ろ向きだという。

「金正恩ひとりを暗殺するだけなら、トランプ大統領は単独で決断することができます。でも、すぐにはやりたくない。

なぜなら、今のような緊張状態が続いてくれたほうが、アメリカの軍需産業には旨味があるからです。実際、トランプ大統領は韓国に配備したミサイル迎撃システム『THAAD』の費用10億ドル(1100億円)を負担しろ、と韓国政府にふっかけています。できる限り危機を煽って、韓国や日本に兵器を買ってもらいたい。

トランプ大統領は根っからのビジネスマン。暗殺してしまうと儲からなくなるし、支持率アップにも利用できなくなる」(前出・米政府関係者)

アメリカがなかなか決断を下すことができない背景には、トランプ大統領の「ビジネスマインド」も深く絡んでいる。

ドナルド・トランプPhoto by GettyImages

すでに2度失敗している

では、北朝鮮内部で、自発的に金正恩を暗殺しようという動きは出てこないのだろうか。

日本ではほとんど知られていないが、朝鮮人民軍は、少なくとも2度にわたって金正恩暗殺を企てている。が、いずれも未遂に終わった。

まず'12年秋、人民軍のある部隊が決起した。同年7月に粛清された李英浩総参謀長の部下であるといわれる。

計画が失敗した後、首謀者は粛清されたが、金正恩は半年間平壌に閉じこもり、護衛の兵士を増やし、さらに自宅を装甲車に警護させるなど、警備を増強した。

2度目は'13年4月、爆弾を搭載した軍の車両が、金正恩の乗るベンツに突っ込んだ。

このときは、車外に投げ出された金正恩に、通りかかった22歳の婦人警官がとっさに覆いかぶさり、爆発から守ったという。その婦人警官は、のちに北朝鮮最高の栄誉である「共和国英雄称号」を授与された。

さらに、金正恩が工場などの視察に出かけたときや、軍事パレードやイベントの際に、相討ち覚悟で飛び出す市民が現れてもおかしくない。

「金正恩が国民の前に姿を現すときには、『大元帥の歌』という金正恩をたたえる曲が必ず大音量で流れるので、誰でも出て来るタイミングが分かる。

また、工場などの視察に行く際には、約1ヵ月前に視察先へ党中央の調査隊が行き、あらゆる施設や職員をチェックして、病気や感染症の者がいれば外し、危険な場所があれば整備させる。

だから、訪問先の職員なら、事前に『この日程で金正恩が来る』と察知できる」(朝鮮労働党関係者)

しかし、金正恩の視察当日には厳重な身体チェックがあるうえ、100人以上の警護隊が帯同しているため、凶器を持ち込んで襲いかかるのは容易ではないという。

「北朝鮮では、70年にわたって金一族が築き上げてきた強固な監視体制が出来上がっています。政権関係者は24時間監視され、毎日日誌を提出し、誰と会って何を話したか逐一報告しなければならない。

齟齬があれば査問され、果ては粛清されてしまう。反乱を企てて殺されるくらいなら、脱北を企てる人のほうが多いでしょう」(前出・高氏)

金正恩が権力を握り続ける限り、日本国民も核ミサイルの恐怖にさらされ続ける。この膠着状態は、意外と長引くのかもしれない。

 

「週刊現代」2017年5月20日号より