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アメリカが金正恩を暗殺しない理由〜やる気があるのかできないのか
鍵はトランプの「ビジネスマインド」
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一方、韓国政府関係者によれば、こんな興味深い実例があるという。

「現在、金正恩がおかれている状況は、かつて韓国の朴正熙大統領が暗殺されたときと酷似しているのです。

'70年代末、独裁政権だった韓国政府中枢では、大統領警護室とKCIA(中央情報部)が対立し、朴大統領への『忠誠合戦』に明け暮れていました。

やがて、警護室が優勢になり、KCIAは弱体化していった。この隙をついて米CIAがKCIAにアプローチし、当時のKCIA部長・金載圭に『今、朴大統領を殺せば、あなたが次の大統領になれる』と囁いて、大統領と警護室長を暗殺させたと言われているのです」

当時、朴大統領は極秘裏に核開発を企て、時の米カーター政権から再三警告を受けていた、との説もある。こうした背景も金正恩にそっくりだ。

「現在の北朝鮮でも、秘密警察にあたる国家保衛省と朝鮮人民軍vs.朝鮮労働党組織指導部という構図で内部対立があります。この1月には、金正恩の叔父で『北のナンバー2』といわれた張成沢の処刑を主導した、国家保衛省の金元弘部長以下、局長クラスの幹部4~5名が処刑されました。

米CIAが『斬首』の実行犯を選ぶとすれば、かねてから内通者が存在するこの保衛省関係者から選ぶ手が有力です」(前出・韓国政府関係者)

 

核の発射ボタン

政権の内部対立を利用して、金正恩の首を切る――この方法なら、朴正熙のときの成功体験がある。韓国や日本の被害を抑えるためにも、また中国・ロシアを刺激しないためにも、空爆という「外科手術」はできるだけ避けたい。

内通者にやらせれば、事が終わった後も、「内部のクーデターだ」と言い張れば済む……

こうしたさまざまな利点から、アメリカ政府は内通者による「静かなる斬首」作戦を、最も現実的な選択肢と考えているのだ。

しかし、金正恩はいまや「最強のカード」を手にしている。そう、核ミサイルである。

〈米国が挑発を仕掛けてくれば、即時にせん滅的攻撃を加え、核戦争には核攻撃戦で応じる〉

4月15日の軍事パレードでは、金正恩側近の崔竜海・朝鮮労働党副委員長がこう述べた。米軍の空爆に限らず、もし自身の命が脅かされる事態になれば、金正恩はヤケクソで核の発射ボタンに手をかけかねない。まさに核が暗殺防止の「抑止力」となっているのだ。

北朝鮮Photo by GettyImages

北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起氏はこう話す。

「アメリカ政府が、本気で金正恩暗殺を実行することはないと思います。

これまで、核保有国の独裁者が排除された前例はありません。また、金正恩を刺激して、もし核ミサイルが在韓米軍や在日米軍に向かえば、『米軍と国民を核の脅威にさらした』として、政権は猛批判に遭うでしょう。不用意に手は出せません」

北朝鮮の核が暴発すれば、アメリカ側も核で応戦せざるを得なくなる。金正恩の「斬首」が、全面核戦争の引き金を引くかもしれない――。

さらに、アメリカの政府内部の意見も決して一枚岩ではない。

誰よりも金正恩暗殺計画の早期実行を望んでいるのは、CIAだ。トランプ政権発足以来、米軍は予算を9%上乗せされたが、先の大統領選でヒラリー陣営寄りだったCIAは、トランプ大統領から冷遇されている。金正恩を排除するという「大手柄」をあげて、少しでも点数を稼ぎたいという思惑がある。