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日本経済を食い尽くす、医療・福祉への「雇用一極集中」

社会の衰退を食い止めるには

全く矛盾した2つの「不安」が今の日本を覆っている。

ひとつは少子高齢化で労働力が不足し、経済成長が停滞するという不安だ。もうひとつはAI(人工知能)やロボット化の普及で職が奪われ失業が増えるという不安である。

もちろん、誰にでもわかるように、この2つの不安は論理的に矛盾している。にもかかわらず、広く同時に語られているのは奇妙なことだ。

しかし、どちらが現実には、より深刻かつ長期的な問題であるかといえば、間違いなく労働量の不足による経済成長の制約である。この点で日本経済は、AIやロボット化の普及を躊躇う余裕などなく、むしろ経済的により豊かなステージに上がるために必須の条件である。

 

雇用の増加と四半世紀ぶりの人手不足

2013年以降の景気回復の持続で、失業率は2.8%(3月)まで下がり、有効求人倍率は1.45倍(3月)といずれもほぼ1990年代初頭まで遡る四半世紀ぶりの人手不足を示している。

ところが2013~16年の平均実質GDP成長率は1.3%(年率)、所得に注目した実質GNI(実質国民総所得)も同1.8%(年率)にとどまる。

もっとも1人当たり実質成長率で見ると、日本経済のこの時期の成長率は他の先進国に比べ悪くないのだが(日本1.3%、米国1.3%、ドイツ0.6%、フランス0.4%)、楽観的な気分になれるほど高い水準でもない。

また、現在の人手不足は本当の景気の回復によるものではなく、2013年前後に65歳の定年を迎えた団塊の世代の引退によるものだという意見が一部にある。それは全くの事実誤認だ。その主張が事実なら、人手不足は雇用の減少を伴っているはずである。

たしかに2010年1月~12年12月の3年間の雇用増加はわずか13万人だった。ところが2013年1月~17年2月は約4年間で253万人の雇用増加だ。すなわち2013年以降の人手不足は明瞭な雇用の増加を伴って生じている。

「増えているのはパートなど非正規雇用ばかり」と思っている方もいるが、2015年1~3月期からは正規雇用も前年同期比平均40万人のペースで増え、直近の16年10~12月期は同74万人の増加だ。

それでは人手不足が深刻化する現状で、どういう産業で雇用が増えているのだろうか。

これを示したのが下の図である。

見てわかる通り、2002年以降、医療・福祉分野での雇用者が430万人(2002年1月)から748万人(2017年2月)へ318万人も急増している。一方、製造業は同じ期間に110万に減少である。雇用全体では同期間に451万人増えており、その増加分の70.5%を医療・福祉が占めていることになる。

急増する高齢者の医療・介護コスト

もちろん、医療・福祉分野の雇用者急増は高齢化による医療や介護サービスの増加によるものだ。そして、この分野での雇用の急増は2000年代以降の日本経済に3つの暗い影を落としている。

第1は財政赤字である。

たとえば2014年度の総医療費40.8兆円のうち、財源の内訳は患者の自己負担等(含むその他)5.1兆円(12.5%)、保険料は19.9兆円(48.7%)であり、残り15.8兆円(38.8%)は国庫と地方の「公費」でまかなわれている。すなわち財政赤字である(厚生労働省「平成26年度国民医療費の概況」)

第2は賃金の低迷である。

2000年以降、日本の平均名目賃金は穏やかに低下したが、社会保険・福祉分野の賃金は2000~2010年の間に20%も大幅に下落し、平均賃金低下のひとつの要因となっている。この原因は国が運営する介護報酬制度による賃金の抑制に加えて、同分野における「パートタイム労働者や、ホームヘルパーなど比較的賃金の低い職種が増えたことに起因する」という(近藤絢子『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』第1章、玄田有史編、慶応義塾大学出版会、2017年)。

第3の暗い影は長期的な経済成長に係るものだ。

若い未就労世代や現役世代の医療や教育コストであれば、それは労働力に復帰する、あるいは将来労働力になる人口への「投資」であり、将来の経済的な豊かさにつながる。ところが高齢者への医療・介護は労働力に戻ることのない人口への純然たるコストである。もちろん筆者は「だから切り捨てよう」などと暴論を語る気は毛頭ない。ただ日本が直面しているこの事実から目をそらして経済を語ることができないということだ。