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直径65mmの巨大脳腫瘍を緊急摘出!お妻様「5年生存率8%」に
されど愛しきお妻様【8】
鈴木 大介 プロフィール

たった一度の涙

僕はといえば、失うことばかりを考えていた。もし再発したらどうやって生きていくか、生きることをあきらめて後追い自殺をすることを含めて考えた。

せっかく念願の自然に囲まれた田舎暮らしを始めたのに、日々移り行く季節の花々を見ては、来年この花を夫婦で見ることはできないかもしれないと思い、2ヵ月に一度のMRIが無事に「再発兆候なし」の結果で検査終了すると、次のMRI検査までの2ヵ月が夫婦で過ごせる最後の時間だとしても悔いのない夫婦生活を送ろうと、毎回誓った。

一方のお妻様はというと、生きることだけを考えていた。不安や恐怖しかない宣告を受けても、お妻様が涙を流したのはたったの一度きりだ。

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手術が無事に終わり、病名告知を受けた後、抗がん剤治療が始まると生モノが食べられなくなるということで僕らは茨城県の那珂湊に寿司を食いに行った。その帰り、車の窓から美しい冬の夕日を見て、お妻様は涙を流した。

予定されている放射線治療は、切除した腫瘍の外縁部を最大限広範囲で照射することが求められ、左右の視神経が交差する視床下部をギリギリ攻めることになる。放射線の担当医からは、この際の弊害として「最悪のケースは全盲」と告知されていた。お妻様は生きることだけを考えていたが、夕日を、空を、小鳥を見られなくなるかもしれない可能性に、一度だけ涙を流した。

そのあとのお妻様は、「死ぬときは死ぬし、死なない人間はいない」と宣言し、生きている今を最大限楽しむモードに見事にシフトチェンジ。いや、もともとそれこそがお妻様の主義そのものなのだが、一層楽しむモードを加速させたのであった。

 

そんな男前のお妻様を前に、僕もまた、間違った方向に加速した。

まずお妻様には毎月の抗がん剤治療に集中してもらうべく、「家事は一切しないでいい」宣言。従来のものに比べれば圧倒的に副作用が少ないと言われている抗がん剤テモダールだったが、やはりどうしても正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、免疫の強さの指標である「WBC(好中球)」が落ちてしまう。この数値が一定の基準を満たしていないと抗がん剤治療が継続できないため、とにかくストレスになることは一切してほしくなかった。

同時にやはり免疫を強くするために、三度の食事は「免疫を強くする食事〇品」みたいなレシピ本を参考に僕が管理し、食事と起床就寝時間を管理するために、携帯電話のタイマー機能に「僕の起床、お妻様起床、朝食、昼食、夕食、就寝」と、複数の設定を入れるありさま。